空き家 売れない家 其の三
「空き地になった家の、花達でございまするか?」
今夜はお目当てのドラマがあったらしく、隠れてオカンと観賞してしてきたいえもりさまに、帰りに友ちゃんが呟いていた言葉が気になっていえもりさまに言う。
何だかんだ言っても、頼るのはいえもりさましかいない圭吾だ。
「あーほら?お迎えタクシーをオカンが見かけて、それで黄泉の国?に言った事あったべ?青鬼のタクシーに乗って………」
「おお!若、ご記憶でございまするか?」
とか言って、天井に張り付かせた体を、乗り出す様にして見せる。
………三歩歩いたらスコーンと、全て忘れてしまう圭吾だと思っているのが手に取るように分かった。
「覚えとるわ。何とかの岩に吸い込まれて、マジで暗い所歩かされたんだからな……」
昔〜昔のイザナギとかいう神様が奥さんを鬼怒らせて、追いかけ回す奥さんからどうにか逃げ切って、黄泉比良坂という所で千引きの岩で出口を塞いだ。
……圭吾が大まかにまとめて覚えた、自分が吸い込まれた〝大岩〟の正体だ。
「若……千引の岩でございます。動かすのに、千人力を必要とする大岩にございます……」
「俺は動かせなくて、其奴に吸い込まれた、けどな……」
「いやいや若、あれは黄泉大神のお力にございます……」
「……かも知んねーけど、吸い込まれたのは俺だから………」
「あれは、隙間ができておりまして……」
「オカンが見ちゃいかんもんを見た。……がしかしだ、考えてみれば、隙間をほったらかした神様がだなぁ………」
圭吾が屁理屈を宣おうとしていると、いえもりさまはジト目で見ている。
最近のいえもりさまは、かなり生意気だ。
「そ、その見てはいけないお迎えタクシーを、オカンが見た家の真向かいの空き家だった家の………」
「ああ!元晴の家にござりまするか?」
いえもりさまは、声を弾ませて言った。
「も……元晴?そんなのは知らんが、あそこはずっと空き家でさ……」
「左様にござります。あそこはずっと元晴が居りましたゆえ、空き家ではござりませぬ」
「はぁ?あそこはずっとずっと、俺が小さい時から空き家だ。あ・き・や」
圭吾が、ベットから身を起こして言う。
「いやいや、あそこはずっと元晴が住んで居りました。ゆえに家は売れなかったのでござります」
「元晴って誰さ?」
「あの家の持ち主にござります」
「だから……」
圭吾は、ハッと閃いていえもりさまを見た。
「……何時の人?」
「あー……確か、先先代様がこちらに越して来られた時には……」
「マジかー」
圭吾が頭を抱えて、またベットに横になる。
………そうだそうだ。いえもりさまの感覚程あてにならないものはない。
オカンの子供時代を、それこそ昨日の事の様に語る。
………どころか、大体近代史辺りまでいえもりさま達にとっての最近だ。
いえもりさまのちょっと昔は、圭吾の何代遡るご先祖様だかわからない。
だからきっと、凄く昔はかなり昔で、いえもりさまの若かりし頃?えっ?そういえば、いえもりさまって今現在若いのか?………体が小さいから、圭吾はかなり下に見ていたが、確かに圭吾よりは年上だ。何せ曾祖父さんを知っている……って事は、ジジイいえもりさまだったか?
………だったら、やる事なす事間に合わない感じはしょうがないか……?
しかしあのキレたエロピンクで踊る姿は、決して老いたジジイのそれじゃない。
………?????………
謎多き生き物?
………いや、生き物じゃないかもしれない……
ハッ!考えるのはよそう。
いえもりさま達の事と、宇宙の事を考えていたらキリが無い。
頭が痛くなるレベルで、そういったレベルの物は脳が拒否反応を起こすから、圭吾は自己防衛本能で突き詰めて考えた事がない。第一考えて無駄な事をするのは、もっとも圭吾の苦手な事だ。