空き家 売れない家 其の二
この土地は、ずっと空き家が建っていた。
圭吾達が小学生になって、ピンポンダッシュして悪戯していた時から空き家だった。
圭吾はそんなにピンポンダッシュをした訳ではないが、それでも数回はダッシュした事がある。
まっ、面倒くさがりの圭吾が言い出しっぺのはずはなく、言い出しっぺの悪友の家に近所の人が文句を言いに来て、その行為はやってはいけない行為だと、子供達は知らされる事となりやらなくなった。
そんな昔から空き家だった。
その家には、白と赤の梅の木と金と銀の金木犀と、ピンクと赤の躑躅が在って。そして門には青々とした松の木が在った。
毎年毎年その花達は綺麗に咲いて、この空き家の前を通る人達に目の保養をさせていた。
圭吾が中学校に行く時もこの前を通って通ったから、無人の家の花々達は季節の訪れを教えてくれ、その美しい姿を堪能させてくれた。高校生になっても、そして大学生になった今でも………。
ただ最近こっちを通る事が少なくなり、大通りを通って駅に行っていたから、だから圭吾もそして友ちゃんも、この家が売られた事に気が付かなかったのだろう。
「ここの花達……かなり古株だったのになぁ……」
友ちゃんは真っ直ぐ行けば、圭吾と友ちゃんの家に着く道を歩きながら、圭吾に視線を合わせる事も無く言った。
「確かに……ここ空き家としか覚えないわ」
「……うん……ずっと売家だったけど売れる気配ないから、ワケ有り物件だと思ってたんだけどな」
「ワケ有り物件?」
「………なんかの力で、売れないんだと思ってた」
「あー」
圭吾は頓狂な声を上げる。
何と言っても友ちゃんは少し持っている。
圭吾が全く持っていないものをだ……。
だから、桜の精の木霊とやって行けているのだ。
そう短絡的な圭吾は納得している。
だから友ちゃんがそう言えば、そうなのだろうと納得する。
まっ、ああだこうだと、考えたりする事は得意ではない。
さすがの圭吾もちょっとしんみりして、住宅街の家々に存在する木々を見ながら友ちゃんと歩く。
車が行き交う事のできる、此処の住人達が〝大通り〟と呼んでいる通りを、車が来ないのを確認して渡る。
小学生の頃は、何メートルか先にある左右にある横断歩道を渡る様に言われ、ちゃんと守っていたのに、大人になった圭吾と友ちゃんは、横断歩道が無いにも関わらず渡った。
だって渡るとそのまま、圭吾達の家の前でよく遊んだ〝通り〟になるからだ。
友ちゃん家の前に存在し、圭吾の家の前にも存在する、車一台が通れる通りだ。
物心付いた時からずっと、圭吾は友ちゃんとここの通りで遊んでいた。そしてここを通る車が偶に来ると、家の前に在る側溝に入って車をやり過ごす。そうやってここの子供達は、母親達から教えられて育つ。
側溝に入っていれば、チョロチョロ動く子供でも、車の前に直ぐに飛び出したりはしないし、それだけはキツく躾けられていた。
それだって、代々年嵩の子供達から教えられる事だ。
だから母親が躾けるより、言う事を聞く。
「友ちゃんちも、花が綺麗に咲いてるね?」
「……ああ……桃の花を爺さんが植えたし……」
「えっ?桃?桜じゃなくて?」
「桜は観音堂のが一番さ……」
「あーそうでした」
圭吾が言うと友ちゃんは、はにかむ様に笑う。
「今年も花見をするだろう?ガマ殿が圭ちゃんの所のいえもりさまと、計画立ててる様だよ」
「はあ?マジかぁ……今年も酒と……苺大福か?」
「圭ちゃんの所の、赤飯食いたいな」
「ああ、オカンに言っとくわ……友ちゃん好きだもんなぁ」
「特に圭ちゃんちのは、豆が大きくて美味いよ」
「オカンは友ちゃんファンだから、ゲロ沢山作るぜ」
「うん。楽しみにしてる……おばさんによろしくね」
友ちゃんはそう言うと、門を開けて玄関に手をかけた。
そして振り向いて手を振って、中に入って行った。