表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256/299

空き家 売れない家 其の二

 この土地は、ずっと空き家が建っていた。

 圭吾達が小学生になって、ピンポンダッシュして悪戯していた時から空き家だった。

 圭吾はそんなにピンポンダッシュをした訳ではないが、それでも数回はダッシュした事がある。

 まっ、面倒くさがりの圭吾が言い出しっぺのはずはなく、言い出しっぺの悪友の家に近所の人が文句を言いに来て、その行為はやってはいけない行為だと、子供達は知らされる事となりやらなくなった。

 そんな昔から空き家だった。

 その家には、白と赤の梅の木と金と銀の金木犀と、ピンクと赤の躑躅が在って。そして門には青々とした松の木が在った。

 毎年毎年その花達は綺麗に咲いて、この空き家の前を通る人達に目の保養をさせていた。

 圭吾が中学校に行く時もこの前を通って通ったから、無人の家の花々達は季節の訪れを教えてくれ、その美しい姿を堪能させてくれた。高校生になっても、そして大学生になった今でも………。

 ただ最近こっちを通る事が少なくなり、大通りを通って駅に行っていたから、だから圭吾もそして友ちゃんも、この家が売られた事に気が付かなかったのだろう。


「ここの花達……かなり古株だったのになぁ……」


 友ちゃんは真っ直ぐ行けば、圭吾と友ちゃんの家に着く道を歩きながら、圭吾に視線を合わせる事も無く言った。


「確かに……ここ空き家としか覚えないわ」


「……うん……ずっと売家だったけど売れる気配ないから、ワケ有り物件だと思ってたんだけどな」


「ワケ有り物件?」


「………なんかの力で、売れないんだと思ってた」


「あー」


 圭吾は頓狂な声を上げる。

 何と言っても友ちゃんは少し持っている。

 圭吾が全く持っていないものをだ……。

 だから、桜の精の木霊とやって行けているのだ。

 そう短絡的な圭吾は納得している。

 だから友ちゃんがそう言えば、そうなのだろうと納得する。

 まっ、ああだこうだと、考えたりする事は得意ではない。

 さすがの圭吾もちょっとしんみりして、住宅街の家々に存在する木々を見ながら友ちゃんと歩く。

 車が行き交う事のできる、此処の住人達が〝大通り〟と呼んでいる通りを、車が来ないのを確認して渡る。

 小学生の頃は、何メートルか先にある左右にある横断歩道を渡る様に言われ、ちゃんと守っていたのに、大人になった圭吾と友ちゃんは、横断歩道が無いにも関わらず渡った。

 だって渡るとそのまま、圭吾達の家の前でよく遊んだ〝通り〟になるからだ。

 友ちゃん家の前に存在し、圭吾の家の前にも存在する、車一台が通れる通りだ。

 物心付いた時からずっと、圭吾は友ちゃんとここの通りで遊んでいた。そしてここを通る車が偶に来ると、家の前に在る側溝に入って車をやり過ごす。そうやってここの子供達は、母親達から教えられて育つ。

 側溝に入っていれば、チョロチョロ動く子供でも、車の前に直ぐに飛び出したりはしないし、それだけはキツく躾けられていた。

 それだって、代々年嵩の子供達から教えられる事だ。

 だから母親が躾けるより、言う事を聞く。


「友ちゃんちも、花が綺麗に咲いてるね?」


「……ああ……桃の花を爺さんが植えたし……」


「えっ?桃?桜じゃなくて?」


「桜は観音堂のが一番さ……」


「あーそうでした」


 圭吾が言うと友ちゃんは、はにかむ様に笑う。


「今年も花見をするだろう?ガマ殿が圭ちゃんの所のいえもりさまと、計画立ててる様だよ」


「はあ?マジかぁ……今年も酒と……苺大福か?」


「圭ちゃんの所の、赤飯食いたいな」


「ああ、オカンに言っとくわ……友ちゃん好きだもんなぁ」


「特に圭ちゃんちのは、豆が大きくて美味いよ」

 

「オカンは友ちゃんファンだから、ゲロ沢山作るぜ」


「うん。楽しみにしてる……おばさんによろしくね」


 友ちゃんはそう言うと、門を開けて玄関に手をかけた。

 そして振り向いて手を振って、中に入って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ