空き家 売れない家 其の一
久しぶりに駅で、友ちゃんと会った。
「やっぱ圭ちゃん?デカいのが歩いてると思ったよ」
改札口を抜けた所で、腕を引っ張られて言われる。
「友ちゃん……」
振り返って、ワイヤレスイヤホンを片方外す。
「デカいわ、声掛けても無視するわ……」
真顔で眉間に皺を寄せられて、ちょっとヤバい感を醸し出している。
「あー!気づかなかった……悪い」
友ちゃんは相変わらずカッコ良い。
幼い時から圭吾程ではないが、洋服には無頓着だ。そんなにお洒落でもないのに、何故だろう?友ちゃんが着ていると洒落て見える。
そういえば圭吾も、そんな事を言われた事があるが……。それはきっと、兄貴分の友ちゃんの影響かもしれない。
洋服は余りお下がりを貰った事はなかったが、おもちゃとかは貰っていたらしい。
………らしいと言うのは、最近になって男の子が一度は通る、車世界の頂点を極めている車玩具を、大量に友ちゃんのお母さんから頂いた事を、あのお喋りでありながら、何故か大事な事を言い忘れる母親から聞いたばかりだからだ。
そんな無頓着に着ていても絵になるパーカー姿の友ちゃんと、やはり同じ様な格好のパーカー姿の圭吾が並んで歩くと、行き交う女性陣達の視線が泳いでいる。
二人はそんな事も無頓着に、久しぶりながらも馴染んだ感じで楽しく話しは尽きない。
それは当然で、この街並みが二人の思い出であり、つい最近ハマっているゲームの中では話しなども交わしている。
「ここに柿があったのにな」
いつも圭吾が通る大通りではなく、子供の頃を懐かしんでちょっと裏通り、住宅街を歩きながら友ちゃんが言った。
「ああ……古い家が在って……その内駐車場になってたけど……」
「そうそう……駐車場になって暫くは柿の実が成ってたけどな……知らない内に消えてた……」
友ちゃんは六台ばかり止められそうな、コンクリートで固められた駐車場を見つめて言った。
「……駐車場にするにしても、先住者の木々達はそのままにして欲しいな」
友ちゃんは少し寂しげに言う。
元々自然大好き、昆虫や動物好きの友ちゃんは、花や草や木々が大好きだ。
代々の子供達が木登りをすると言われる、この辺りでは有名な公園の木々で木登りを教えてくれたのも、蟻の穴を掘ったりダンゴムシやトカゲ、カナヘビを捕まえて遊んで、夕方のチャイムの音と共に、それ等の生き物達とバイバイをするのを教えてくれたのも友ちゃんだ。
つまりめちゃ遊ぶけど、ちゃんと帰してあげる事、殺生を決してしない事を教えてくれた。
……と言っても、聖人君子の様な友ちゃんだって、めちゃ小さい時には、水の入ったバケツに蟻を浮かべてたりした事だって、無いわけではない。
ただそんな事をして、友ちゃんは何かを感じて今に至り。決してそんな事をした事がない圭吾は、何も感ずる事もなく今に至ってしまった。
友ちゃんは桜の精の木霊と恋人関係で、植物ひいては自然環境保護へと感心を広げ日々勉強している。
圭吾はそういった世界のもの達の存在を、やっといえもりさまの存在で認め始めているが、そういったもの達との関わりには、まだまだ偏見というより無知からくる偏見があり過ぎて、とても友ちゃんの様にはなれそうにない。
「……ああ……」
駐車場から少し歩いて道成に折れると、友ちゃんは再び大きな嘆息を吐いた。
「あれ?ここ……」
圭吾は更地になって、土地の真ん中に土が少し盛り上げられた様子を見て言った。
「ここ売れたんだね……」
「うん……地鎮祭したばかりかもな……」
「地鎮祭?家建てる前の?」
「………うん。神様にお許し頂いて、家を建てたせて頂くんだね」
そう言った友ちゃんの表情は、何だか少し寂し気で、ジッとその真ん中の盛り上げられた土を見つめていた。