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不思議噺 あやかし病院へようこそ2 其の七

 珠香はベットの上に腰掛けて、間近に見える森林に目を向ける。

 木々は大きく揺れたり小さく揺れたりしていて、その間から見える森林の中はかなり深そうだが、病院のその外から眺めた感じでは、然程大きく深い森林には思えなかった。


 ……ああ、自分は何て馬鹿なんだろう……


 珠香は再びそう思って、森林の木々を見つめる。

 世間一般にしてはならない事をして、そんなの気にならない程に熱くなって、きっといつかは内宮は、自分を選んでくれると思っていたのだ。今の家庭も妻も子供も捨てて……。

 ……なんて驕った事を、考えていたのだろう。自分と同じ様に、内宮の子供から父親を奪うつもりでいたのだ……父親の居ない淋しさを、味わう子供が存在する事さえ考えずにいたのだ。だから珠香は両親だけではなく、まだ産まれて来てもいない子供に愛想をつかされてしまった。

 だからきっとその報いを受けるのだ……この有り得ない状況は、きっと神様が与える天罰なのだろう。

 何も考えずに、只々夢中になってはならない相手に夢中になって子供迄作って、そして相手の本性が分かって捨てられたら、できた子供をどうしていいか途方に暮れる……そんな浅はかな珠香に与えられる罰……。

 不思議な世界の不思議なもの達によって、どんな制裁を下されるのだろう……。

 珠香はそう思ったけど、何故か森林を見つめていると、不気味とか恐いとかも無くなって行った。

 徐に立ち上がって、ベットの上の衣服に手を掛けると、その下に新品の下着が置いてあって、何だか思わず可笑しくなって珠香は笑ってしまった。

 狐の稲荷……稲里はしたり顔で美人に化けているし、ちょっと気になるフレーズを入れて語る。

 産婦人科医の(むじな)の先生もだ……。

 アイツ等は、珠香の何を狙っているのだろう?……やっぱり魂ってヤツだろうか?

 今夜持って行かれるものだったら、せめて疎遠となってしまった母に会いたかったな……っとちょっと思った。だが母も今の夫とは、上手くいっていて幸せそうだから、珠香のこんな面倒事を、きっと負担に思うだろう。

 母は珠香とは違って、高校迄一緒に暮らして育てでくれたし大学迄出してくれた。そして大学の近くに一人で暮らす面倒も、困らない様に見てくれた。

 ……なのに珠香は覚悟も無く、一緒に育ててくれる事の無い相手の子を宿して、最後の最後に始末に困り果てる体たらくだ……化け物達に喰われても、文句の言える人間じゃない。


「はぁ……」


 と大きく溜め息を吐いて、ベットに横たわった。

 どのくらい寝てしまったのだろう、森林が真っ赤な夕陽に染まった頃、珠香はベットの枕元に片膝を立てて、見つめる看護師と目が合った。

 

「角田珠香様ですね?今宵お世話をさせて頂く、土田と申します。宜しくお願いします」


 土田は、ニコリと笑って頭を下げた。


「よ……宜しくお願いします」


「角田様、今宵は天満月(あまみつつき)、そして貴女の人生が変わる日です……その様な門出に、お世話させて頂けてとても光栄です。精一杯務めさせて頂きますね……」


 土田はそういうと、珠香の手を握って言った。

 一瞬それは鋭い爪が現れて消えたが、珠香は吃驚する事なく見つめた。


「あと一時間程でお食事となります。お時間になったらお声をお掛けしますね。角田様は手術もまだなので、ナースステーション前の休憩室でお食事をお取りください」


「手術って……」


「悪い物を取る手術ですよ」


「あー癌を……」


「……全てを委ねて下さっているんですね?決して悪い様には致しませんから、安心してお任せくださいね」


 土田は再びニコリと笑って、跪いていた身を立ち上がらせて病室を出て行った。

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