表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
246/299

不思議噺 あやかし病院へようこそ2 其の三

 翌日には退院した。

 只の貧血……。思春期の頃から貧血があると言われ、母と暮らしていた時には母がいろいろと工夫して、レバーを食べさせてくれたが、珠香はレバーが好きではない。

 あのモサモサとした食感……珠香にはそうとしか思えない、()()を好んむ人が存在るが、それすらも理解できない程に、珠香はレバーが嫌いだ。

 だが、仕事で疲れているであろう母が、一生懸命作ってくれた料理は、臭いとかモサイとか、そんな事は全然気にしないで、美味しく食べられたのに、母と別に暮らす様になってからは、全く食べる存在の物ではなくなった。

 だから、貧血を起こして倒れた訳ではなくて、元々貧血気味なところに、不倫相手の内宮との別れ話しで、眠れぬ日々を過ごしたのが原因だ。

 それ程、珠香は内宮が好きだった。

 まっ、相手はただの戯びだったようだけど……。

 そう思えるようになっただけ、珠香もだいぶ熱が引いて来ている。

 あれだけ縋って泣いたのに、振り切られて捨てられたのだ、余程の馬鹿じゃなきゃ眼が覚めるというものだが……。




 最寄り駅から、バスで20分……。バス停から国道を外れて歩く事10分。その病院は田畑に囲まれて姿を現した。

 外観はそんなに新しもなく、大きな今風の建物でもない。中に入ると最新式でも無いし、なんだかこざっぱりとしている。

 まぁ、田舎の病院って処か……。

 それこそ途中でバスの中から眺めた、はるか向こうにそびえ建っていた病院の方が、それは大きく建物も洒落ていて、田舎の風景に似つかわしく無い程に最新式感が漂っていて、珠香の目を惹いたのだが……。


「これは角田様……」


 受け付けの所で〝稲荷〟に声をかけられる。


「あっ!狐……」


「稲里でございます」


 丁寧に頭を下げる稲里ソーシャルワーカー、今日はそつなくちゃんと化けている。


 ……尻尾なんかも出ていない……


 それでも思わず、尻尾を探してしまう。


「ようこそあやかし病院へ」

 

 稲荷はにこやかに笑みを浮かべて、珠香を見つめた。


「あ……よろしくお願いします」


 外来で人の行き来があるが、そんなに混んではいない。

 ()()()の病院に、患者を持っていかれているのは一目瞭然だ。


「……では、産婦人科でしたね?」


 稲里は、淡々と言って珠香を促した。


「ああ、受け付けまだなんです」


 珠香が慌てる様に、受け付けに向かおうとするのを


「角田様」


 稲里が神妙に呼び止める。


「受け付けは済んでおりますから、こちらに……」


「えっ?」


 珠香は、狐につままれた様に立ち尽くした。


「だって、私今来た所で……直ぐに稲荷さんに会ったんですよ?受け付けなんか……」


「私が貴女にパンフレットをお渡しして、貴女が来ることになさった時点で、受け付けは完了されております。ご安心ください」


 そう言うと、稲里は颯爽と珠香を促して前を行く。

 病院は五階建てで、一階と二階が外来となっている。

 外来診療科の数が、最近の大学病院とはかなり劣るが、主要な診療科だけはあるので、病院のみならず診療科も小ざっぱりしているという事か……。

 産婦人科は、二階の奥にひっそりと在る感じだ。

 患者を大きな大学病院に取られてしまっている所為か、病院そのものが凄く閑散とした感じで、ちょっと狐の稲荷の誘いに乗った事を後悔させた。


「角田さん」


 そんな後悔を拭い去る様に、凄く早く名を呼ばれた。

 珠香が唖然とする様に、診察室の前に来ると


「角田珠香さんですね?」


 看護師は、それは優しく微笑んで聞いた。


「はい」


「中に……」


 珠香の背に手をやって促して、側に一緒に居た稲里に目を向けて会釈したので、稲里が珠香が中に入って行くのを、見送ってくれている事に気がついた。


「大丈夫ですよ。先生は女性だから……」


 少し年配の看護師は、物静かに珠香に囁く様に言った。


「角田さん?」


 女医は、ちょっとキツそうな顔を珠香に向けて聞いた。


「はい」


 返事をしながら、対座する様に腰掛ける。


「そろそろ、妊娠三ヶ月になる頃ですか?」


 珠香に言うというより、独り言の様に言って


「兎に角診察しましょうか?」


 先程の看護師に視線を向けると、手慣れた様に看護師が珠香の肩に手を触れた。


「こちらに…」


 促される様に立ち上がって、カーテンの先に在る小さな部屋に入った。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ