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神隠し 狐の嫁取り 其の終

「二度と逢えなかろうとも、幸せに暮らしていると思える安堵感だけは持てますからね?……母御は宮司様をジッと見つめて、小さく何度も頷いていたのを思い出し、兄は慌てて寝た切りの父を看る母御のもとに飛んで行き、蔵の話しをすると母御は話しを全て聞き終える事なく、大粒の涙を止めどなく零しながら蔵に走って行き、息子が語った様に蔵いっぱいに積み重ねられた米俵を見つめ、そして声を挙げて泣き伏して、天を拝む様にして稲荷大明神様に感謝の言葉を、繰り返し繰り返し告げたと言う事でござります……その後も、幾たびか窮地に堕ちますと、蔵に救いの品が届けられ、その度毎にそのお店は大きくなり、近くのお社と裏の竹林を保護する様に勤めて参り、今の不動の地位を築き挙げたのでござります」


 ……めでたしめでたし……


 一瞬圭吾もいえもりさまも、言葉を無くして黙った。


「……と、そこの家の家守りが申しておりました」


「そこのお店にも、家守りが居たのか?」


「当然にございます。母御様がお通いになられたもありまするが、家守りが稲荷大明神様にご相談申したのでござります。あの様な悪癖のある権力者の許に、家のお嬢様を差し出すは忍びのうござります。それは愛らしきお嬢様ゆえ、若き眷属神に仕えさせて頂けぬか……お頼み申したのでござります。いざとなりましたならば、それは一か八かでござります」


 いえもりさまは、またまたドヤ顔を見せた。可愛いがやはりキモい。


「それで嫁に拐ったのか……どうもそこがなぁ……」


「何を申されます若さま……あの欲に目をくらませておりました当主に、神が嫁に欲しいと挨拶などするわけがございませぬ。第一その様な事は不必要でございます。宮司が申すが真実(ほんとう)。会う事は叶わずとも、幸せで暮らしておるのでござりますれば……それは困った時に嫁の里に、救いの手を差し出すが常にござります。一族が栄え栄華を極めれば、それは嫁となった娘が幸せであり、神との間に一族の血を引く神の子がおるという事。加護と恩恵を賜ります」


「なるほど……それは美味い話しだな……変態ロリにやるよりいいな……」


「はーあれは以ての外にございます。如何様に権力者であろうとも、眷属神様の奥方様に不埒な考えを起こした者の末路は悲惨なものにござります。それは仮令父御といえど……でござります」


 さすがにそこの処は、最近学習して来ている。

 神様達って案外容赦がない。いろいろな面で、チキンな圭吾みたいな人間は、深く考えたり知ったりしない方がいいという事だけは解って来ている。



 そんな暇つぶし的に、いえもりさまの話しを聞いてから少し経った或る日、大学も行かずに家の炬燵に潜り込んで、久しぶりにワイドショーを見ていると、最近なんだかんだと話題となる鬼退治のコーナーを、それは不機嫌にいえもりさまは見ていたが


「おっ?」


 コーナーが変わって、例の某企業の旧家の話題となって、有名人のお宅拝見的な模様で、明るく可愛いアナウンサーが、現当主に案内されて大きなお屋敷を案内されて行く。


「これ我が家で、代々伝えられている屏風なんです」


 当主は古ぼけた屏風を、アナウンサーに見せる。


「あ?これ狐ですか?」


 可愛いらしい声で、アナウンサーが言った。


「ええ。もうはっきり見えませんけどね……」


 とか言っているが、なぜだろう?圭吾にはとても綺麗な青に近い銀色の毛並みの狐と、それ程幼くはない可憐な少女の婚礼の絵に見えた。


「?????」


 圭吾が神棚の、いえもりさまへ目をやると


「稲荷大明神様の眷属神様とその奥方様の、肖像画にござります」


 と重々しく言った。


「大明神様は母御様に安堵して頂くが為、キチンと印しをお渡しにござります」


「はぁ?何時さ?」


「その様な事は、知己の家守りからは聞いておりませぬ」


 いえもりさまは、それでも嬉しそうにテレビに釘付けになって言った。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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