神隠し 狐の嫁取り 其の五
「大店と申しておりますが、然程の物ではございませず……商いを大きくする為に、その家の童女をある権力者の元に、奉公という名目で差し出す予定でござりました。しかしながらその権力者は、童女好きという悪癖の持ち主でござりまして、散々幼いうちから弄びその内妾と致す者だったのでございます」
「ゲッ?ロリ……ってヤツ?」
「はぁ……そんな感じ?でござりましょうか?如何様に若い妻を娶れども、如何様に愛らしい少女を妾にしようと、幼い者に気が行くのでございます……ゆえにそこの家の者は辟易と致し、当然ながらお店の母御は差し出しとうございませぬ、近くにございました稲荷大明神様のお社に足繁く通うて、お助け頂ける様に懇願致しておったのでございます。ある日何時もの様に参詣致しました帰り、お社の宮司と立ち話を致し、童女と兄の二人が遊んでおりましたら、お社の奥にございます竹林から、兄の方が大慌てで駆けて参りまして、立派な衣装を身に付けた狐が、妹を拐って行ったと言って泣き出しました。宮司と母御は血相を変えて人手を集めて探させましたが、残念な事に妹は見つかる事はございませんでした」
いえもりさまは、大きく首を横に振って一息吐いた。
「マジでお稲荷さんが拉致ったのか?」
「若さま……お言葉をお気をつけくださりませ。稲荷大明神様は母御様の願いを、お聞き届けくだされたのでございます。決して拉致ってなどおりませぬ。きちんと童女の妹の意思を確認してからの、嫁取りにございます」
「……とか言って、稲荷大明神だっていい歳だろ?結局少女を嫁にするんだろ?ロリの権力者と変わりないわ」
「若!本当に〝メッ!〟でございます」
いえもりさまがドヤ顔で、吸盤の付いた指?的な物を立てて言ったが、プルプル動いてマジキモい!
「言われるが通り、稲荷大明神様の生は長くございまするが、丁度眷属神となるをお許し頂いた、若き眷属神様への嫁入りでございます」
「へ〜そんなのあるんだ?」
「あるんだにございます。第一稲荷大明神様方は、遣いとして狐を使われておりますが、お気に召された物を眷属神とされるのでござります。ゆえにその眷属神の嫁御として、その童女を輿入れさせるのでござります。大明神様からの賜り者でござりますれば、それは眷属神様は慈しみを持たれます」
いえもりさまは、またまたドヤ顔を作って言うのだが、ウザいだけなのでどうにかして欲しい圭吾だ。
「その後神隠しに遭った童女のお店は、権力者の力添えを頂く事はできず、大きくなる事は叶いませんでした。そんなお店の、権力者に娘を差し出して大きくしようとした当主は、大病を患い寝た切りの生活となりまして、兄が若くして店の主人となりました。そんな或る年干魃が続き飢饉に苦しめられる事となりまして、然程大きくもなかったお店でございますゆえ、蔵の中は空っぽという状況となりました。もはやどうにも立ちいかなくなり、兄が空っぽの蔵に首を吊る覚悟で参りますと、蔵いっぱいに米俵が置かれてあるではありませんか?」
……米俵って聞くと、何故だか笠地蔵を思い出す圭吾である……
雪の降る中お地蔵達さんが、米俵や反物やらをいろいろ運ぶ昔話だが、案外圭吾はばあちゃんが好きで見ていた、昔話のアニメが好きだった。
「兄は茫然自失となりながらも、妹が神隠しに遭い泣き狂う母御に、お稲荷さんの宮司様が囁いた言葉を思い出しました。……あれは大明神様が、お内儀の願いをお聞き届けくだされて、〝彼方〟にお連れくだされたのですから、それ程に嘆く事ではありません。どの道ご当主のお決めになられたお方に差し出されれば、会う事もままならず、正妻や他の妾達に虐められていないか?ご当主に甚振られていないか危惧する事となります……しかし大明神様であれば、その様な危惧は不必要な事」