神隠し 狐の嫁取り 其の四
さてそんないえもりさまだが、最近話題の〝鬼退治〟的な内容のヒット作品にお冠だ。
何でも人間が物の怪退治や妖怪退治とかは、到底できるものではないらしく、まして
「鬼退治などは有り得ない!!!」
とそれはそれは、最近やっとキモ可愛く見え始めた圭吾すら、ドン引きする程の形相を作っていえもりさまは圭吾に訴えるが、訴えられた処で……の圭吾である。
そんなの圭吾が書いた物でも無いし、圭吾が騒いでいる物でもない。
どちらかといえば、ちょっと不思議世界のもの達と関わり合っているから、かなり冷めた目で見ている側の人間だ。不機嫌を露わにされて、ちょっと八つ当たり的な感じも閉口だ。
何故だか不機嫌だから、いえもりさまの大好物の、竹林堂のいちご大福などを土産に買って来たりしている。
なんとも考えれば最近の圭吾は、守って貰っている筈の家守りに気を遣う始末だ。
さてそんないえもりさまだから、テレビの中でも大好きなワイドショーを、渋面を作って見ている事が増え、最近では余り見なくなってしまった。
かなり芸能通の母親に、負けず劣らずであったが、最近はそうでもない。
それはそれで煩くなくていいのだが……。
圭吾は見ていたバラエティーを見終えるや、自室に向かった。
最近はテレビよりも動画の方がお気に入りで、ついつい部屋でくつろいで見る様になってしまった。
とうとう我が家にも、昨今の風潮が訪れた感だ。
母親もインターネット配信の韓流華流ドラマを、自分の部屋でまったり見ているから、ばあちゃんが居た頃には賑やかだった、テレビのある居間が段々寂しくなって来ている。
圭吾がベットに横になって動画を見ていると、天井に張り付いていえもりさまが戻って来た。
「あれ?オカンもドラマ見ないのか?」
「今宵は、面白いドラマがございません」
「あーそうか……」
余り気にするタイプではないので、そこはアッサリと納得して動画に見入っていると
「若……若主人さま……」
どうやら暇を持て余した様子のいえもりさまが、天井に張り付いたまま言った。
「ん?」
とか気の無い返事をする。
「……先程の、母君さまのお話しでございますが……」
「オカンの?」
「はい……狐の嫁入りの……」
「狐の嫁入り?そんな話ししてたっけか?」
動画から目を離す事なく、返事を適当にしている。
「……ああ?蔵の?お稲荷さん……って、狐の嫁入り?」
圭吾の狐の嫁入り……は、晴れなのに雨が降る……。
お稲荷さんと蔵とどういう関係だ?
とにかく圭吾はさっきの話しの〝蔵に米俵〟が印象的だから、動画から視線を天井のいえもりさまに向けて言った。
「若……あれは稲荷大明神様が、お気に召したものを嫁に貰ったのでございます……」
「気に入った子供を嫁に拐ったって事?神なのに外道だなぁ」
「またまた若主人さま……罰当たりな物言いはお謹みくださりませ」
あたふたと慌て感がキモ可愛いから、思わず圭吾は言ってしまうのだ。
ちょっと前の圭吾ならば、そりゃ恐れ知らずの罰当たり者だったが、最近では有り難い友のお陰?ってヤツでそこそこ学習しているし、そんな世界を圭吾よりハマりまくってる友人が増えたから、一応の畏敬などは持ち初めている。
「あの話しには、子孫の者達には知らされぬ事柄があるのでござります」
いえもりさまが知った顔を作って、それは神妙に言うから圭吾は身を擡げて聞いた。