遭遇 分からない物 其の終
雅樹は電車の中で考える。
まだ陽が在る窓外は明るかった。
ガタンゴトンと電車が揺れる、するとガタガタと音が変わり川を渡っている事に気がついた。
窓外に、さほど大きくは無い川が流れている。
春になれば桜が咲き、その桜を愛でに人々が集まり、少し遅れて河津桜が咲いて再び人々が集まる、そして夏には大がかりな花火が打ち上げられる川で、ここいら辺で育った者ならば知っている川で、雅樹は中学高校時代には、自転車で友達と遊びに行っていた所だ。
そんな懐かしい〝川〟を見つめて、雅樹はハッと閃いた。
……彼女達は、雅樹を見ていたわけじゃないのか?……
また音が変わった。
橋を渡り終えたのだ。だがもはや雅樹が、〝それ〟に気づくはずはない。
……彼女達は違う相手を見ていた?だが感の強い雅樹が気がついたから、だから凝視したんだ……その視線に釘付けになったのは雅樹だけだ。相手は気にしていない……
電車のドアが開いた、それすら気が付かずに雅樹が思案する。
……では彼女達は何だ?彼女達が見つめていた相手……相手……最初は長患いの妻を持つ老人だ。そしてその数日後に妻は亡くなった……ならば?今日は?その老人と一緒に居た女性……彼女も誰かが病院に入院して、そして……そして???……
電車のベルの音で雅樹は、我に返って窓外に目を向ける。
余りに見慣れた景色に、慌てて電車を降りた。
……やべぇ、乗り過ごす処だった……
改札を抜けながら、ふと違和感を感じた。
そして改札を出た瞬間に、違和感が無くなった。
「……………」
雅樹は改札口を見つめて、立ち尽くした。
そして改札を出て来た人にぶつかられ、酷く嫌味ぽく舌打ちをされて我に返り、慌てる様に階段を降りた。
「いつからだ?いつから迷い込んでた?」
階段を降りると、バス停のベンチに腰掛けて一息吐いた。
確かにあそこの駅から、行く事ができる病院は多い。
大学病院系列の病院が二つ?三つ?その他にも三つ四つ?
そして最近は、老人を対象とした施設が増えている。
そしてそれに伴い葬儀社の数が増えた。否、交通の便が良いので、近年集中して増えている。そして送迎のバスを走らせている。
つまり……。
……死神か……
と、雅樹は思い浮かべて頭を抱えた。
……否違う。死神程の大物なら、斗志夫さんには分かるはずだ……なら何だ?……
バスが入って来て、降車口から人々が降りて来た。
雅樹はまたまた邪魔者となって、舌打ちされるのは御免なので、思い腰を上げて自宅へ向かって歩き出した。
……知り合いか?だが、エレベーターの爺さんは知らん顔だった……知らない知り合い?……わざわざ?なぜ?……死ぬ事を知らせに来たのか?誰に?爺さんは気が付かないのに……それでも知らせに来たのか?なぜ?……
雅樹は考え込んだ。
……分からないものって、いるんだよ……
斗志夫さんの言葉が、脳裏に浮かぶ。
……これも修行の成果?……
普通は気が付かないのか?弔問客にしか見えないのか?だが知らせに来てる。そして必ず何かの形で知らせているはずだ。
虫の知らせ第六感……として知らせているんだ。
それを感じる様になったんだ。否感じるだけじゃない、〝見る〟事ができるようになったんだ。
今日見送った三十代の女性の大事な〝誰か〟が、近々死ぬのだろう。
それを、知らせたい〝誰か〟又は〝何か〟が知らせているのだ。
そして追い立てる様に、彼女達を病院に向かわせる。
少しでも長く、大事な人と長く居られる様に……。
そして時には、生き逝く人からのメッセージを届ける……。