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遭遇 分からない物 其の一

 鈴木雅樹は電車で、斗司夫さんの家に修行から帰る駅で、あるものと目を合わせた。

 それは改札を抜けて階段を登ろうとした時に、目の前のエレベーターが奇跡的に開いたので、待っていた老人と三十代位の女性と乗った時の事だった。

 当然の事だが、駅のエレベーターは上がった。それもちょっとだけ上がって行く感が否めないのは、駅のエレベーターが短いからだ。大概の若い者は階段を使用する程の登り、だが年を取ってしまったり、怪我をしていたり、車椅子だったりベビーカーだったり……と、意外と使用する者は多い。

 大学生でまだまだ若い雅樹は、一時期死にかけはしたものの、電車での移動が可能となってからは、使用する事も殆ど無いが……。

 そんな雅樹が、老人とその知り合いと思き女性と一緒にエレベーターに乗ると、エレベーターは直ぐにホームの景色を窓の外に浮かべた。

 その一部しか見せない景色が、エレベーターが動くと共に徐々にはっきりと視界に広がって来る。

 雅樹が〝その女性〟と目を合わせたのは、まだその視界が狭い時だった。

 上へと上がるエレベーターのガラス越しに、その女性はこちらを見て、そして雅樹と視線を合わせたのだ。

 雅樹と視線を合わせる以前に、彼女が何処を見ていたのか、何を見ていたのか分からなかったが、後々雅樹はそれが誰であったか想像ができる様になるのだが、今はそれよりも何よりも、彼女と視線を合わせた瞬間、雅樹は彼女の目に釘付けとなった。

 そして彼女も決して、視線を逸らせる事はなかった。

 視界が広がり、ホームの全体が雅樹の視界に入って来た。

 老人とその知り合いは、先程から親しげに会話をしながらエレベーターを降りて、彼女の前を通ってずっと先まで歩いて行った。

 だが雅樹はまだ彼女を見続け、彼女も雅樹を見つめている。

 黒い服を着た中年の女性は綺麗に化粧をしていたが、一眼で惹きつけられる程の美貌の持ち主とは言いがたかった。極々雅樹が認識している普通の中年女性だ。丸みのある体にショートの髪、綺麗に化粧はしているが決して派手では無い顔立。首には白い真珠のネックレスをして、カチリとした黒い礼服は前を止める物ではないから、その中に着ているやはり黒い服には、ちょっと小洒落たレースがあしらわれている。少し裾が広がる形のスカートは膝丈で、その下に見える脚も丸みを帯びて、黒いストッキングを履いて黒いシンプルな靴を履いている。彼女より背が高い雅樹は、少し背を丸める癖を晒しながら、未だに視線を逸らせずにいる。

 すると少し混み合い始めたホームの人達が、大きく動き始めた。

 見ると電車がこちらに入って来る所だった。雅樹はホームに入って来る電車に近い位置に立っていたので、慌てて後退りしなくては行けなかった。周りの人間に気を取られている間に、雅樹はその中年女性を見失った。


「……………」


 電車が音を立てて入って来て、静かに止まるのを横目に、雅樹は先程の女性を探したが、人混みに呑まれたのか、姿を消したのか彼女の姿は見つからなかった。

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