表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/299

不思議噺 まだ死ねない 其の三

仔猫が死んだと知った、今まで無関心を装っていた隣人達が、次々と野良猫に餌をやる様に女に言っている。


……とうとうあいつが仔猫を殺した……


と囁きあっている。


「あの女の人も、今迄避妊もせずに餌をやっていた事を反省しているので、避妊させてください」


と言う者迄現れた。


「いや、猫に餌をやらなきゃ居なくなるから」


老人は笑って言った。

すると何処の若い奥さんかは分からない、顔だけ知っている奥さんは少し顔を歪めた。


「此処に居なくなっても、他所に行くんですよ?迷惑掛かるんですよ?……だったら、避妊すると言ってるんですから、此処に居着いた野良猫全部避妊させて下さい。野良猫の寿命はそんなに長くはないし、雄猫なら何処かに行くかもしれないじゃないですか?それまで待ってあげては?今まで黙ってたんだから?」


「黙ってなんかいませんよ。さっさと捨てて来いって言ってたんだから……」


妻はそう言うと


「捨てて来てはいたんだから……それでも避妊はしない主義だとか言って、そのままだったのよ……」


かな切り声をあげる様に、若い奥さんに言い放った。すると奥さんは暫く黙ったが


「とにかく避妊だけはさせてください。そうじゃないと、あなた達の思惑通りに餓死しなくて、どこかに行ったら増えるんですよ」


その言葉が、気の弱い老夫婦の胸に刺さった。

後日老人はアパートの女に、野良猫を捨てて来ないと出てもらうと宣言した。

その後、その奥さんはあの女から、もう関与しない様に言われた様で、老人夫婦と顔を合わせても目も合わせない様になった。

そしてそんな隣人が増えた。

それは猫で大騒ぎを起こした、あの煩い隣人にも当てはまった。

彼女もまた挨拶を交わし、世間話しをしていた隣人達を失う結果となり、残忍な煩い婆ア、と陰で言われる事が増えた。

野良猫は痩せ細り点でに何処かに行ったが、餌をくれる者は存在するのだろう、一部の猫は暫くしたら少し太ってアパートのどこかに帰って来ていたが、その内帰って来る事はなくなった。

そして親しい隣人と思っていた隣人達が、存在しない事に気がついた頃、老人は夜中にトイレに起きてそのまま意識を失い。それに気付かれぬまま、妻が起きて見つけて、救急車を呼ぶ迄病院に運ばれる事はなく、老人は生死の境を彷徨いながら一命を取り留め、もはや体を動かす事もできず、食事を取ることも水を飲む事もできずに、ずっとうつらうつらとこうして、病室のベッドに横たわっている。

鼻からチューブを入れられオムツをされ、少しずつ体が硬直して足や手が硬くなって行く。

そして毎日毎日仔猫の泣き声にウンザリして、それでも息をして偶に目を開けて看護師の声を微かに聞いている。

そして夢の中では、何時も〝あの時〟に老人は存在して苦しめられている。

あの野良猫を騒ぎ立てた、死んでも忘れる事のでないだろう隣人の苦情の最中……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ