死神様 樹海へようこそ 其の終
「ほう?久方ぶりであるな死神よ」
「お久方ぶりにございます、金神様」
死神様は行儀よく金神様に頭を垂れて挨拶をする。
蒼光と煌めく輝きが、ゆっくりと揺らいでいるとしか見えない。
「此度は難儀な事であったな、圭吾よ」
……とか言いながら、声は笑っている。声が……。
「マジっすよ。いえもりさまが、余計なお世話をしてくれちゃた所為で、死ぬところだったんすから」
圭吾はプンプンとお冠だが、知り合いがいっぱいいるものだから、先程迄のチキンぶりが吹っ飛んでしまっている、物凄ーく現金なヤツだ。
「ははは……それは気の毒にな」
「……ったく……」
圭吾は怒りが収まらぬ様子で、胸にへばり付くいえもりさまを、人差し指でピンピン小突いて見せる。
「あー!田川さん、なんつー事を……」
松田は圭吾の手を取って言った。
「いえもりさま、田川さんのいう言葉を、真に受けちゃダメっすよ。実篤様は殊の外、いえもりさまにはご恩をお感じすっからね……。鈴木さんの彼女さんになった枝梨さんの中から、最愛の恋人の薫子様を引きずり出せたのは、いえもりさまのお節介のお陰だと……いえもりさまにはくれぐれも礼を言ってくれ、との言伝っす」
「?????」
「……だからっすね……」
松田がタラタラと説明をしようとするので、圭吾が
「あー!いえもりさま、賀茂は正真正銘の薫子様と、魔物夫婦となって現世を彷徨うらしい……今新婚旅行だとさ」
と、手短に済ませようとする。
「さようにござりまするか?……それは何よりにござりました……お独りでは余りに、永き年月は辛うござりまする故……」
いえもりさまは家守の筈なのだが、大きな瞳をウルウルさせて言った。
「……これは小神様……」
死神様は小神様が松田の側に寄ったので、それは丁寧に頭を下げた。
「初めてお目通り頂きます」
「死神よ。多忙な其方の統べる場所を賑わせて、あいすまぬな」
「とんでもございません。これ程の面子の方々がお越しとは……存じておりますれば、おもてなしの準備などを、致しましたものを……」
「よいよい。わしは此処で、マッタリと致すが心地ようておったのだ。其方がしっかりと致しておる故、実に此処は居心地がいい」
「猫にゃん様、有り難きお言葉ながら、それ故に皆が中々成仏致してくれず、困り果てております」
「ふふん……とか言うて、此処の者に恩情をかけておるのであろう?」
金神様が死神様に言った。
「はぁ……昨今は死に急ぐ者達が多く、辟易と致しております」
「其方は死を司る故、人間には恐れられておるが、実に情が濃いからのぉ……現世の辛苦に耐えられぬ者達に恩情をかける。無理くり成仏させるは偲びないのであろう?……っま、どの道此処に居れば、ほぼ彼方と変らぬ故、気がすむまで彷徨わせ、自ずから昇天いたさせるが一番である」
「有り難きお言葉でございます」
「どうせわしは、凄ーく面倒くさい神であるからのぉ」
「はは……お聴きにございましたか?申し訳ございません、正直なもので」
「ふん。其方とわしは最恐神ではあるからのぉ」
「……人間にとって、優しいだけの神はおりませぬ」
死神様は金神様に、それは心地の良い声音を響かせて、ちょっと怖い事を言った。
「……実に……」
金神様と死神様が見つめ合って、笑っている様に見えるのはどうしてだろう?
「……では、そろそろ帰りましょうか?」
松田が言うと、圭吾はそれは嬉しそうな顔を向けた。
「そうだそうだ……陽が落ちる前に帰ろう」
圭吾がそう言った瞬間に、ポッと……本当に漫画の様にポッと陽が沈んで、樹海である此処は真の暗闇と化した。
「はぁ?マジかぁ?」
圭吾の嘆息が樹海を木霊する。
神々しく赤い輝きを放つ小神様と、神々しく蒼い光を放つ死神様が一緒に歩いてくれると、真の暗闇の鬱蒼とした樹海でも、なんと明るい事だろう。
きっと、こんな状況を樹海の外から見た人間は、凛が燃えているとか、火の玉とか言って騒ぐのだろう。
何時もは小神様を拝む事が出来ない圭吾だが、霊験あらたかな樹海のお陰か、死神様のお陰か、神々しく赤い輝きを放つ小神様を拝する事ができるのは、ラッキーな事なのだろうか?
猫にゃん様と犬わん様はボツボツと出雲に向けて……金神様はご自分のご用を果たしに行かれてしまった。
超絶チキンの圭吾の為に、イメージとは全く異なる優しい死神様が出口まで、自らお見送りしてくださっている。
なんだか、妙に気に入られた感があるのだが、それって喜んでいいのか?
余りに怖いから、考えない様にしておく圭吾だった。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
お読み頂けるだけで嬉しく、ちまちま長く書き続けております。
凄く倖せでございます(#^.^#)
これからも宜しくお願い致します。