死神様 樹海へようこそ 其の六
「……つまりだなぁ……」
圭吾は死神様の視線らしきものを、避ける様に松田を見て言った。
「俺には死神様は、煌々と蒼光を放っていてだな……顔が解らんのだ」
「へっ?」
松田は目を丸くして圭吾を凝視する。
「あー?死神様だけじゃないんだ……金神様も……そうそうイザナミ様とやらもだった……観音様もだ!」
「……田川さん、そのビビリ口調に惑わされて、ちょっと聞き流しそうになったんすけど、イザナミ様って仰しゃいました?」
「うっ、うん……何とかと言う岩をだな……」
「ま、マジっすか?国生み、神産みの?黄泉津大神様の?」
「あ?黄泉……とかいう所にだなぁ……」
「マジっすか?凄え凄え神様っすよー。そんなお方にお目もじ頂いているんすか?マジで田川さん凄過ぎっす!!!」
凄く痛いヤツを見る様な顔をしていたくせに、急に真逆の視線を送り始めた。
「いやだから!俺はそいつらの顔をだなぁ……」
「どうしてそんな大事な事を、教えてくれなかったんす?俺が神系に一途なの知ってましたよね」
何故か急に不機嫌になって詰問される。
「やっ、そんな事言い触らす事じゃないだろう?それにだ、俺的にはこーいった事は、あんまり考えん様にしてるから、いつもは忘れているんだ」
「わ、忘れる?何て勿体ない事を……」
松田の不機嫌が増していく。
「……じゃなくてだな、俺には見えないんだ顔が……神の顔が……」
「田川さん、それは当然の事っす」
「へっ?」
「いいっすか?神様はそれはそれは尊いお方なんす。そんな尊いお方を、高々の俺らが拝める筈が無いじゃないっすか?」
「……そう?」
「愚問んす」
一人大きく頷きながら松田は言ったが、急に死神様を見つめて目を瞬いた。
「???……大変失礼ながら、死神様。わたしはですね……死神様のお顔を拝見できるんすけど……?」
神妙な面持ちで、失礼の無い様にお聞きしている。
「えっ?マジで?俺には見えないが?」
「田川さん、俺も生まれて初めてっす。マジで感激……を越して、死んでもいい程っす」
「いやいや松田早まるな。まだ俺達は若いからな……死に急ぐな、生き急ぐな」
大真面目で会話しているのだが、誰が聞いても呆れ返る様な内容だ。
「……っで、死神様はやっぱ骸骨なのか?」
圭吾の問いに、同レベル感いっぱいの松田が呆れる視線を再び送る。
「はぁ?何を失礼な!」
「いや、さっきから言っている通り蒼光が煌々としているから、顔が拝めん」
「凄え凄えイケメンっすよー」
「マジかぁ?」
「ああ、ゲームのキャラみたいな……」
「ええ?死神が?イケメンキャラなのか?マジかぁ?俺の概念を根刮ぎ裏切るパターンな……」
二人の会話にとうとう、笑いを堪えられなくなった死神様が
「まぁ……此処は神気が高いからなぁ、〝持っている〟者には見えるかもな?あんまり人間とは遭遇しないし、会ったとしても死んで行くから、そこのところはよく解んないけど……」
「マジ?此処に来るヤツは死ぬんだ?」
圭吾が頰に手をやって蒼ざめる。
「……って言っても、皆んなが皆んな死ぬ訳じゃないよ。ちゃんと生還する者だっている」
その言葉に松田が、鬼の首を取ったような表情を作る。
「ただ……大体此処に入る者は、死にたい願望が強いからねぇ……そんな感情があっちとの繋がりを大きくしちゃうからさぁ……大体死ぬけど……」
今度は圭吾がホラホラ……と、恐怖感MAXに見つめる。
「……っーても、君達の生に対する感情じゃ、あっちとの繋がりを、大きくするとは思えないけど」
「マジっすか?」
圭吾が安堵の色を見せて、死神様に視線を向けた。