死神様 樹海へようこそ 其の四
「マジで光栄っス。初めてお目もじ頂き、超〜感激っス」
松田の身体から、ハートマークがピンクに赤に、飛びかっている様に見える。
「爺さんの時も婆さんの時も、お目もじ頂けなかったっス……っーてもまだ生きてるんすけどね」
へへへ……と、松田は感極まった感じで、それはそれは不敬な事を口走っている。
「松田」
圭吾は一直線に見つめ続けて、見惚れる様子の松田の顔面近くに顔を持っていった。
「松田……神様は?もしやもしやと思うのだが、俺の想像の神様だろうか?」
松田は真剣に聞く圭吾に、視線を落として笑顔を見せる。
「もう!田川さんたらぁ、相変わらずお茶目なんだからぁ!死神様っすよ、死神さ・ま」
ゆっくり動く松田の唇を読んで、圭吾はクラクラする様にへたれこんだ。
「マジかぁ……とうとう年貢の納め時かぁ……」
「はぁ?何を呟いてるんスカ?マジでマジで感動っス。……死神様にお目もじ頂けるなんて、一生にあるかないかっすよー」
「松田。死神に会う時はお陀仏の時だろーが?」
「えっ?マジ?マジっすか?」
松田は圭吾から視線を再び死神様に移した。
「うーん?大体そうなんだけどさぁ……そうじゃない場合もあるかな?」
「……って事っすよ」
松田は再び圭吾に視線を落とす。
「……って言ってもだなぁ?」
「いやぁ!田川さんと出会ってから、俺マジ感激もんっス。魔物系の実篤様にお会いでき、見習い霊能者の鈴木さんとは友達になり、いえもりさまに金神様に……知らない者がいない、と言っても過言ではない死神様っス……マジで感動っス」
「いや……松田。この状況は俺が招いた物じゃないぞ、ただただお前が招いた物だ。俺を巻き添えにしてだなぁ……」
圭吾がつらつらと言っているにも関わらず、松田はそんな事は無視して、憧憬してやまない死神様に視線を移す。
嬉し過ぎて松田の顔面が上気して見え、なんだか目がキラキラ煌めいて見える。
流石の死神様も、そんな熱い眼差しに苦笑い……圭吾には判然とは見えないが……している様だ。
「うーん?君程の感情を向けて来る者がいないからさ、ちょって照れるなぁ」
死神様はそれは明るく……圭吾の死神像を払拭する程に明るく言った。
……っというか、落ち着いて見れば、想像する死神様とは全く違う。
まず黒い着物を身に付けていないし、ドクロの顔ではない……と思う。余りに神々しく蒼光を放つから解らないが……。それにちょっと低音だが美声だし、何と言っても話し方が明るいし湿っぽく無い……と言うか陰湿では無い。どちらかというと〝陰〟より〝陽〟っぽい。
「……で?見た所、君達が此処に居る事自体、ちょっと違う様に思うんだけどさー?」
「さすが死神様っス。俺達人を探してまして……いや、人ではないか……」
松田は自答して
「小神様と家守りを探しております」
と言った。
すると死神様は、それは興味深そうに二人を見た。
……様に圭吾は思った。しつこいが圭吾には死神様の顔が拝めない。ただただ蒼光するだけだ。
「へぇ?君……小神様の?かなりの大物と知り合いだなぁ?」
死神様は、松田を見つめて感心する様に言った。
「マジっすか?俺には小神様しか解らないんっす。元の大神様にもお目もじ頂いているんすけど、そんなに大物神様なんすか?」
「ああ、かなりなもんよ。あの神が小神様を遣わすなんて、君の家は代々お仕えしている氏子かい?」
「いえ、残念ながらそうじゃないんす。おかんが……俺の母親が相当悲痛な面持ちで、大神様に頼み事をしたらしく……」
「へぇ?それで小神様を遣わすなんて、君持ってるねぇ」
「そうすか?」
松田は嬉しそうに死神様を見つめて言った。