死神様 樹海へようこそ 其の二
「ようこそ樹海へ」
「わ!」
圭吾は背後から声をかけられて、松田に抱きついた。
「田川さん、重いっす」
神系の癖に意外と〝霊〟も平気なのか、松田は落ち着いている。
……というか、ガタイの割にチキっているのが圭吾……って事か?
「マジ?マジ?霊さんっすか?」
松田はチキチキまくっている圭吾を突き放して、面前に立つ物凄く陰湿感漂う、蒼白い顔をして無表情な美女に言った。
「れ、霊?霊?」
圭吾はガン見しながらも、松田の腕にしがみついている。
なんせ圭吾は〝持って〟いないから、〝霊〟なんて見るの初めてだ。
「ここに来る方にしては、何となく騒がしい……というか、キョどっているというか……」
一応〝う〜ら〜め〜し〜や〜〟とは、言っていない物の、何となく声が嗄れていて低いから聞きづらい。
「あー、俺たち決して怪しいもんじゃないっす……」
「松田……怪しいのはあっちだ」
圭吾が小声で突っ込む。
こんな時でも突っ込みを忘れない圭吾は、キョどる必要はない様に思うが、どうやら身体がキョどるらしい。
「実は小神様と家護りを探しに来まして……そこら辺で見かけなかったスカ?」
「見てません……」
陰湿霊美人は、顔をフルフル振って小さな声で言った。
「マジかぁ?じゃ見かけたら、探しに来た事を伝えてください」
とか、あっさりと言い残して松田が歩き始めたので、松田にへばりついている圭吾も歩き出す。
「かー!俺霊さんと話しすんの初めてっす……マジ感動す……」
松田は、へばりついて歩く圭吾に言った。
「普通初めてだろ?〝怨めしや〜〟て言われんで、普通の会話できるのなんて……」
「そう、それっす……マジ感動っす」
「それって感動するもんか?俺なんて、なんか厭な汗出てるんだが……」
「ようこそ樹海へ」
「うわ!」
又々背後から声を掛けられて、圭吾は飛び上がった。
「マジっすか?」
松田は細っそりとした、蒼白い顔の男性を見て目を輝かせた。
「ここって、マジ霊さんの宝庫っすね」
「宝庫とは言わんだろ?」
再び圭吾が小声で突っ込む。
「家護りと小神様を、見かけてませんか?」
松田は、陰湿霊美人の時と同じ事を聞く。
「いや……」
細っそり霊は重々しく首を振る。
「あー見かけたら、探しに来てる人間が二人いる事を伝えてください。宜しく!」
松田は少し手を上げて言い残す。
「まじかーまじかー…」
とか、へばりついて圭吾は歩いているが、それが数人…霊?十数人…霊?ともなってくると、さすがに慣れて来た様子で、松田の隣を歩く様にはなったものの、挙動はかなり不振……ビビりまくっている。
それに反して、何と松田の嬉しそうな事と言ったら……。
松田も慣れがでてきているものだから、会う霊会う霊に愛想を振りまいている。
「……松田……」
へばりつく事がなくなった圭吾は、キョドッているから後ろを見て、松田の腕を取って小声で言った。
「モーなんすか?今日の田川さん、マジカッコ悪いっす」
余りの圭吾のチキン振りに、さすがの松田も呆れ顔で言った。
「あーいや……俺も……俺もだなぁ、気がつきたくは無かったんだが、気づいてしまったものは仕方ない。第一こんなものに無縁の俺様が、どうして見えるんだか?そこの処が不明だが、一人では抱えきれんから……だから松田に言うんだが……」
「はあ?なんすか?」
松田はいえもりさまと小神様が中々見つからないので、〝霊さん〟の宝庫といえどもちょっとイラつき始めて言い捨てた。
「後ろにだなぁ……」
「後ろ?」
「俺らの後ろだ。後ろにいっぱいついて来てる……」
「何が?」
松田は後ろを見やって立ち止まった
「まじかー」
松田を大喜びさせる〝霊さん達〟が、行列を作って二人の後をついて来る。
「な……」
圭吾は笑い顔を作りたくて、少し口元を歪めて言った。