不思議噺 神護りの村 其の三
真っ暗な道を、先に見える微かな光るものの様なものに向かって歩く。
天空には白く光る丸い月が輝いてあるのに、何故足元は明るくないのか?歩く道は明るくないのか?点在する家々は明るくないのか?
男は不気味な道をてくてくと歩いた。
……いや……
不気味な道……ではない。
此処は違う……のだ。
全てが違うのだ……。
異世界……決して入ってはいけない《《場所》》
そんな事が脳裏に浮かんだら、背筋が冷たく感じた。
どの位歩いただろう……。
かなり歩いた様に思うのに、国道といわれた光が微かに動いている所は、まだまだ遥か彼方に見えて、近付いている様には到底思えない。
「!!!」
のに、先程寄った施設はかなり遠くに見える。
「気味悪……」
男は舌打ちして呟いた。
すると目の前に墓地が現れて二股に分かれている。
墓地を真ん中にして右と左に分かれているのだが、右の道の先は更に真っ暗な暗闇と化している。
左の道の先も暗闇だが、ちょっと行った所に、脇に入る小道があって、その先に大きな旧家が建っていて、微かに灯りが見えた。
男は無論の事、その灯りに惹きつけられて左の道に進んだ。
脇にある小道を少し歩くと、微かにしか思えなかった灯りは、実は煌々と輝いていて、家の中からは人声とテレビの音が聞こえている。
男は顔を綻ばせて、旧家の家の大きな開いている門を潜った。
「すみません」
「はい」
男が玄関から声をかけると、直ぐに家中から返事が返って来た。
「遅くにすみません」
男は嬉しくなって声を上げて言った。
「どちらさんで?」
玄関が開くと、中から小柄なお爺さんが顔を出した。
「この先の神社っていうか、林っていうか……」
「ああ……○○○神社だね?」
「えっ?」
「○○○神社」
やはり男は幾度となく聞き直すが、神社の名前が聞き取れない。
「その……神社の所で車が動かなくなってしまって……」
「それはお困りでしょう?」
「はあ……」
お爺さんが即答してくれたので、男もホッとして頷いた。
大きな庭を見れば車も有るし、こんなに遅く迄テレビが付いているならば、若い子がいてもおかしくない。
上手くすれば、あの遥か彼方に見える国道迄送ってもらえるやもしれない。
そう男は思いやってホッとしたのだった。
「そりゃお気の毒だが、今夜は若い者が出ていてな……」
「そうすか……」
少しの期待があっただけに、男の落胆は大きい。
「本当にな……この先の林で近隣の娘が殺されてな、通夜でこの辺りの者はそこに行っているんだわ」
「通夜……?随分と遅く迄かかるんすね」
「氏子が殺されてしまったんだから大変さ。氏子で神様のお怒りを少しでも鎮めにゃ……」
「お怒り……って、どうなるんす?」
「そんな事わからないよぉ。氏子が殺されるなんて事、今までなかったからね。此処は唯一神様が御座す地だからね。天寿を全うする事はあっても、《《殺される》》事はなかったからね……」
「はは……さっきもこの先の施設のおじさんが言ってたけど、マジで殺されたりした事ないんすか?」
「ないよぉ。稀にあったとしても事故くらいか……?それだってそう無い事だからね」
「じゃあ、この辺の人はみんな長寿なんすか?」
「天寿と長寿は同じじゃないよぉ。持って生まれたもんはそれぞれだからね」
「そうなんすか?」
「そうだよぉ。まあ、此処の氏子になってみない事には、納得はいかないだろうけどね。此処の氏子はみんなそう理解できるように、神様にお護り頂いているんだわ。その氏子が殺されたとなるとねぇ、そりゃもう大問題だわ……」
おじいさんはしわがれた声で唸るように言った。