不思議噺 神護りの村 其の二
「この先に……」
年かさの男は、今来た道と施設との丁度真ん中を指差した。
「ほら林があるでしょう?」
男も其方の方へ顔を向ける。
「彼処にうら若い娘の死体が放置されておりましてね……ほら、彼処の林……見えます?」
「あっ?いや……暗いから……」
「いやいや、ほらほら一層暗くなっている、そうそう大きく黒くなってる……」
「あっ?ああ……」
男は年かさの男の言いなりに頷いた。
「あんな方まで、彼処の神様の?」
「《《彼処》》迄がそうなんですよ」
「ギリっすか?」
「ギリ?まあそうかな?」
「……って、氏子が殺されたらどうなるんすかね?」
「さあ……」
「さあ?」
「いや……あってはならない事だからね……今迄無かった事だからね……」
「ああ……そうっすよね〜わかんないっすよね〜」
「うんうん……で、タクシー呼びたいんだったっけ?」
「そうっす」
男が言うと、年かさの男は
「じゃ……ちょっと待っててね」
と言って中に入って行った。
男は玄関の外で暫く待っていたが、なかなか年かさの男が出て来ないので、ちょっと不安になって施設の中に入った。
「あのー外で待ってた方がいいっすかねぇ?」
中に入ると受け付けのような所があり、ずっと奥に広間があった。
広間の脇に部屋があり、微かにドアが開いていたので、男は小さな電球が付いているその部屋を覗いた。
「えっ?」
部屋の中には、ベッドに横たわった老人が三人。
骨と皮だけのようになって横たわっている。
一瞬男は老人達が死んでいるのかと驚いたが、老人達は寝たきりである事が察しがついた。
「此処は介護施設だったのか?」
そう独り言を言うと、ひとりの老人と目が合った。
老人は男の顔をまじまじと見つめて、とても悲しそうな表情を作った。
「こんな所に居たんですか?困るなぁ……」
男が老人の側に寄ろうとした時に、年かさの男が大慌てで男を部屋の外に連れ出して、開いていたドアを閉めた。
「あ……すみません、遅かったもんだから……」
「それが、なかなか連絡が付かなくてねぇ」
「えっ?駄目っすか?」
「駄目だね〜」
そう言うと年かさの男は、男の背を押して玄関の外に連れ出した。
「この先を行くと国道に出るんだ」
「どっちっすか?」
「こっちこっち……今来た方の反対……」
「あっ……言われれば、なんか光ってる感じっすねー」
男は年かさ男の指差す方をじっと見て言った。
「国道に出れば、バスもあるかもしれないし、派出所も在るから」
「派出所っすか?考えもつかなかったなぁ……って、バスまだある時間なんすか?」
「まだ十二時にはなってないが、流石にバスはないか……」
「まだ十二時前っすか?それにしては、この辺暗くないっすか?家も電気付いて無いし……」
「この辺りの人間は寝るのは早いが、言っただろ?あってはならない事が起きたからね〜」
「あってはならない事が起きたからって……今の世の中で、皆んなこんなに早く寝ちゃうのおかしくないっすか?」
「おかしいのさ……」
「えっ?」
「だから、おかしいのさ……絶対やっちゃいけない事だから……」
年かさの男はそう言うと、そそくさと玄関の中に入ってドアを閉めた。
男は再び不気味な暗闇の中にひとり取り残された。