青月 薫子様 其の六
「薫子は俺を探してる。だからこの先松田の言う通り、薫子の想いは俺に向かう……。鈴木がどう思おうともだ……」
「マジで?」
「ああ……それが定めだからな。あの時……鈴木に連れられて病院に行った時、すぐに気がついた。薫子の生まれ変わりだって……。その前に〝知らぬふりをしよう〟と言って別れたが、それはできぬ事だと再認識させられた。互いに天意に逆らう事を選べば、こんな風に命の危険を目の当たりにさせられる。そして薫子の人生において、重要なポジションに置かれ、再認識させられると知った」
「再認識すか?」
松田は合点がいかない様子で言った。
「つまり、薫子とは出会う運命なのさ。そして、知らぬそぶりを決め込もうとすれば、薫子は命の危機に遭遇する……。たぶん、生まれてくる〝意味〟がないからかもしれない……。薫子の転生は俺と共にあるからさ……」
「うーん、むずいっすね」
「簡単な事さ。俺と過ごせないその人生は、薫子には不必要なものだから……」
「そうだとしたら、凄くないっすか?」
「薫子も俺と同じだ。ただ執念の怪物になってる……。俺の様に永遠に生き長らえるのではないが、転生を繰り返して求める怪物だ」
賀茂は嘲る様に言い捨てた。
「俺がいなくなれば、変わるんだろうが……」
賀茂はそう言って言葉を切った。至極考えを巡らせている。
「賀茂さん、縁起でもない事言わないで下さいよ」
松田が慌てる様に言った。
「いなくなるなんて……」
「いや……たぶん……俺が魔物になっていなくても、これは、繰り返されるのか?薫子の執念は俺と同類……?」
賀茂はハッとした様に松田を見た。
「田川の高熱……家守りは〝祟り〟と言ったのか?」
「あ?ああ……はい。小神様にそう言ってました」
「小神様は?」
「神妙は面持ちで、田川さんをご覧になってから立たれるって……。だから俺その辺知らないんすよ……」
松田は申し訳無さげに言った。
「すみません」
「いや……松田!鈴木と連絡とってくれ」
「鈴木さんすか?まさか薫子様の事で?……賀茂さん、マジ三角関係の縺れ……ってヤツは勘弁して下さい、俺責任感じるっす」
「何言ってんだ?」
「いや、だから……薫子様を諦めさせるっていう……」
「お前馬鹿か?」
賀茂は珍しく、松田にデコピンした。
「あれは薫子様じゃない。〝生まれ変わり〟だ」
「……どこが違うんす?」
「全部だ!」
「だって〝生まれ変わって前世のやり直しをする〟っていうのが、定番しょ?」
「ああ……誰も本当の所は知らんがな」
「へっ?」
「前世の縁で生まれ変わって、やり直していると自覚している〝人間〟は、いないって事だ。なんとでも言える」
賀茂は、大真面目な顔を松田に近づけて言った。
「そんな事自覚してやれるのは〝魔物〟しかいない」
「おお?」
今更ながらに吃驚仰天の松田に、賀茂は尚も続けた。
「俺の様に〝憤怒の魔物〟か〝執念の魔物〟か……だ」
「え?」
「俺は永い永い年月をただ生きて来た。〝ただ〟……だ。そんなに永の年月を生きて、気がつかなかったとはな……」
賀茂は嘲笑するように言った。
「そうだ、何の為に俺は魔物となり、何の為に生きて来たのか?松田それが今解ったよ」
「……それって、薫子様の生まれ変わりと、添い遂げる為っすよね?」
「ああ……薫子様の生まれ変わりと……だが、俺の望みは違う」
「はぁ?」
「最愛の薫子様を失った怒りが〝俺〟を作ったが、俺は薫子様の生まれ変わりと、添い遂げたいわけじゃない……そんな事は望んでいないんだ」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。それじゃ、薫子様に気の毒じゃ?それこそ、薫子様に怒られちゃいますよ」
松田は神様系に関係を持てる人間だから、〝そこの所〟は何となく嗅ぎとれる。
……マジヤバい……
って事だけは。