青月 薫子様 其の四
「……賀茂さん……」
松田は圭吾の事もあるので、今日はずっと賀茂を探していたが、午後からの授業だったのか、やっと構内で見つけたのは、夕方近くになってからだった。
「田川が?」
「高熱が続いているらしいっす」
賀茂は神妙な表情を作って、何かを考える様子を見せた。
「なんか?」
「ああ……いや、ちょっと……」
「今、うちの小神様と一緒にいえもりさまが金神様を、探しに行ってるんすけど……」
「金神様?」
「ああ、出雲からいえもりさまと一緒にお帰りの予定だったんすけど、樹海でお休みの猫ニャン様と犬ワン様と会って、なんか誘われて一緒に遊びに行っちゃったそうで……」
「猫ニャン様と犬ワン様?田川はそんな方々とも知り合いなのか?」
「え?ご存知なんすか?」
松田は興味津々で聞いてくる。
「一応松田の好きな神様だ。かなり尊いお方達だぞ」
「ええ?そうなんすか?田川さん凄すぎじゃないっすか?」
「金神様が後ろ盾の時点で、かなりのものだろ?」
「後ろ盾すか?」
「何かという時いえもりさまが、呼びに行くって……いざとなればお助け下さるって事だろ?」
「金神様すか?」
「いろいろと謂れのあるお方だが、かなりの大物だ」
「すげぇ……。今まで神系には自信あったんすけど、田川さんには負けるなぁ……」
松田は少しがっかりしたように言う。
「何言ってんだ、田川は猫ニャン様や犬ワン様、金神様の偉大さに気づかない、そんなヤツだ」
「ああ、そうすけど……」
「それより……」
賀茂は涼しい目を、松田に向けて言った。
「ヤツが高熱を出して寝込んでいる方が気になる……。只の体調不良じゃなさそうだ」
「さすが、賀茂さんっす。いえもりさまは祟りじゃないかって、言い残して行ったんすけど」
「祟り?」
「……じゃないかって?判然とはしないんすけど……」
「なるほど……」
賀茂の表情が真剣になった。
「なんか解りました?」
目敏く松田は聞く。
「いや、そうかどうかは……。俺なりに探ってみるは……」
「えーマジすか?」
松田は頓狂な声を発した。
「???」
唖然とする賀茂を見て笑っている。
「鈴木さんも同じこと言ってたから……。すげぇ……〝持ってる人〟って同じ事言うんだ?」
松田は感心しきりに言っている。
「馬鹿か?」
賀茂は呆れた表情を作って言った。
「そう言えば……」
松田は言いかけて言葉を切った。
「なんだ?」
「あーいや……っていうか……」
「だからなんだ?」
「言っていいもんかどうか……」
「だからなんだ?言いかけてやめるな……」
賀茂はそう言うと、松田の額に人差し指を置いた
「まあ……その気になれば、言わなくても知る方法はあるがな」
「おお!賀茂さんマジ怖いっす」
松田は怯えるように、賀茂の指をはねのけた。
「確かに賀茂さんに隠し事は無理っすね」
観念したように言った。
「賀茂さんの彼女さんが、鈴木さんと親しいようで……」
「ちょっと待った、彼女さん?」
賀茂は怪訝そうに念を押す。
「はい。最近よく来る……」
「あ……」
「彼女……が、鈴木さんと親しげに待ち合わせ?っていうか……」
「彼女が〝例〟の鈴木が田川を見つけた原因だ」
「ええ?〝例〟の?」
「ああ……」
「じゃあ、それで賀茂さんの所と鈴木さんの所に?」
「ああ……礼に来た」
「すげぇ、礼儀正しいんすね……って、マジで鈴木さん満更じゃないっすよ……っていうか、彼女、賀茂さん狙いすよね?」
賀茂は何時も〝神〟の事しか頭に無い松田を、感心ように直視した。
「松田、神以外なのに勘がいいんだな?彼女はあの時の、鈴木の依頼主の娘だ」
「え?じゃ、賀茂さんの彼女さんじゃ?」
「いいや……」
賀茂は、鼻で笑う様にして松田を見た。
「じきに松田の言う通りになる……」
「どういう事すか?……てか、鈴木さんは?」
「あれにとったら、どうでもない」
「意味?解んないっす」
賀茂は松田を食い入る様に見つめている。