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月魄 月兎輝夜 其の八

「でもおかしいわね?今は昔と違って、月兎達は簡単に行き来できるはず……。随分多くの月兎達が観光に来てるって聞いたけど?」


「ええマジっすか?月兎凄えな……」


「恋人と一時とて離れたくなくて、弱ってるんじゃないか?」


 友ちゃんは自分の時の事を思い出して言った。

 確か今頃だったか……。友ちゃんは弱った木霊を追って、彼方?其方?に魂が行って、帰って来れなくなった事があったのだ。

 

「ああ……」


 木霊はその時の事を思い出して瞳を潤ませた。


「ほんの一時なのに……」

 

「初めての経験だからそうは思えない。きっと輝夜は、離れるのが怖いんだ」


 友ちゃんと木霊にしかわからない感情が、ふたりを包んで絡み合った。

 圭吾には無縁な、恍惚で甘美な感情。

 たぶん、圭吾がもう少し大人になって愛を知ったとしても、この感情は解らない。

 この感情は人間以外のものと交流しなくては、知る術もない〝もの〟だ。

 そう無頓着な圭吾でも理解した。


「じゃ、どうすればいいんだろう?輝夜を直ぐにでも月に帰すべきだろうけど?」


「弱った状態では無理だわ。一旦私が彼方で養生させて、体力を取り戻せたら、説得して帰らせるわ」


「えっ?彼方?」


「以前木霊が養生した彼方だよ」


 友ちゃんが諭すように言う。


「ああ……。って、今の時期あそこは開いてないんじゃ?」


「観音様はお出でだからお願いしてみます。慈悲深い方ですもの大丈夫。それにそれ程迄に思い詰めているのなら……相手の男性は信用がおける方かしら?」


「初めて会ったから何とも言えないけど、輝夜の為なら死んでもいいって言ってたし、自分の事よりも輝夜の心配してたくらいだから、悪いヤツには見えなかった……って、輝夜って名前じゃないんだっけ?」


「輝夜っていう名はいい名だから、別段こっちにいる時の呼び名でものいいんじゃないか?それより、其処まで思い合っているのなら、とにかく相手の事が重要だけど、縁の神様に観音様からお話し頂いて、縁が結べるか確認してもらうといい」


「ええ、私もできる事ならそうしたいと……」


「うん」


 二人には全く知らないもの達だが、経験者だから思いは手に取るように解るのだろう。

 弱る程に思いを募らせている輝夜にとって、ありがたい程に親身になって考えてくれている。


(えにし)の神様って、いえもりさまの言うところの、ご縁の神様?」


「うん。僕らも縁の神様に確認して頂いて、永遠の縁を結んで頂いたんだ」


「永遠の縁?」


「木霊は永遠に近い生を持っているから、僕が早く死んではひとりになってしまうだろう?それでは僕はおちおち死ねない、だから永遠に木霊がいる限り、僕は生まれ変わり続けて木霊と生を得るんだ」


「ああ、生まれ変わって、また一緒に暮らすって事?」


「うん。それが永遠に続くように、僕は環境や自然的な事を勉強して、木霊が永久に僕と縁を結べるようにして行きたい」


「凄えな……」



 ……恋の力は偉大過ぎる……


「それには相手が信用できるかどうかが大事なんです。私達は観音様のご加護が有るので、簡単にできましたけど」


「なるほど……」

 

 そういえば、友ちゃんは観音様のお気に入りだ。

 

「とにかく少しでも早く観音様にお願いして来ます」


「うん。でも折角圭ちゃんが持って来てくれたんだから、これを食べてからでも遅くないだろ?」

 

「ああ……」


 木霊は頷いた。


「相手の大野木が、信用できる相手かどうか、どう確かめるの?大野木の家知らんのだが」


「縁の神様が御覧になれば一目瞭然だ。ひと目で永遠の縁に値する相手がどうか見分けられる」

 

「へー。じゃ、友ちゃんと木霊はお墨付きって事か?」


「圭ちゃんも難しい言葉を知ってるね」


「いやいや、一応大学生だし……」


「圭ちゃん、木霊達は決して裏切らない。裏切るのは人間だけだ。だから人間はしっかりと見極めて頂かなくちゃいけない、仮令僕でもさ」


「友ちゃんなら大丈夫だろ?」


「僕とて自分は解らない。人間はそういう〝もの〟だ。だから厳しく自分を見なくちゃ、人間以外の〝もの〟とは縁は結べない……。結んでは駄目なんだ」


「友ちゃん厳しくねぇ?」


「人間同士ならお互い様だが、裏切りを知らない木霊となれば、決して厳しくない……」


 友ちゃんはあくまでも峻厳だ。

 だから木霊が惹かれるのだろう、友ちゃんみたいな人間はそうそう現代に存在し得ない。


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