迷い込む 彼方と此方の境目 其の終
それから直に鈴木雅樹から連絡が入った。
無事元の場所に戻る事ができたと、礼の連絡だったが、圭吾にはなんの実感もない。
「鈴木さまも彼方にお出ででござりましたか?」
いえもりさまが目敏く聞いた。
「なんか降りた駅から、用を足しに行った家の間しか移動できなかったらしい」
「それはまた難儀な……」
「ふふふ……。まだまだ修行が足りなんだようだの」
金神様がタブレットを覗き込みながら言った。
「えっ?」
「その者は、己よりも力のあるものと対峙したのであろう。上手く事は果たしたものの、其処に縛り付けられてしまった……幸運な事に、其方に会えたので助かったが、下手をすれば戻って参れなんだやもしれぬ」
「しかしながら金神様、若が彼方に迷い込まれ、戻って参られぬ状況に陥ろうなどと、私めは腑に落ちぬのでござりまする」
「もしやすると、その者の〝縛り〟に巻き込まれたやもしれぬな」
「おお!なるほど」
いえもりさまが歓喜の声を上げたが、圭吾には理解不能だ。
「なんという事はない。其方の友が〝縛り〟に合った時に、たまたま其方が近くにおったのであろう」
「は?」
「それが無くば家守りの言う通り、其方は気が付かぬ内に出られておったであろうが……」
「はあ?マジっすか?」
「ほほほ……マジというやつよ」
上機嫌の金神様は冗談を交えて言った。
「……そういえば、この間変な夢見たのよ」
恐怖映像ではないが、不思議な体験を特集したテレビ番組を見ながら、母親が言った。
「え〜嫌やだな!変な夢見んなよな?」
鈴木雅樹に巻き込まれたばかりだから、当分の間はいろんな事に巻き込まれたくはないのが、今の圭吾の心境だ。
「そんな事言ったって、夢なんだもの仕方ないじゃない?」
確かに何も知らない母親には罪はないのだが……。
「……って言ってもな……」
圭吾はこの前の事があるから余り聞きたくのだが、マイペースな母親は勝手に話しを続ける。
「なんか、圭吾が崖っぷちに友達と居るのよ」
「はあ?マジ勘弁……」
……そんな所を想像もしたくないから、真顔で素っ気無く言い放つ……
「もう吃驚しちゃって……」
そんな我が子の様子すら気にしないのが、圭吾の母親だ。
「それがやっぱり夢だわよねー。うちの勝手口のドア開けて、勝手口から出ろって言ってんの……変な夢だったわ……」
「へえ?あの時の……彼方は崖っぷちだったって事?マジか……。彼方と此方は全然違うんだな……」
「あんた何言ってんの?」
言いたい事を言い切ったので気が済んだのか、事情を知らない母親は、きょとんとして圭吾を見つめている。
「いやいや……夢だろ?ゆめ」
「そうだけど……」
「夢でもなんでも、そう言ってくれて〝ありがとう〟だな」
「だからあんた、なに言ってんの?」
「ははは……鈴木の分も言っとくよ」
「……???……」
「地続きであって地続きにあらず……でござりまするな……」
「ふむふむ……」
神棚の金神様といえもりさまが、不思議特番を観賞しながら囁き合っている。
地獄耳の圭吾には聞こえるが、余り聞こえの良くなくなっている母親には、聞こえていないだろう。
テレビの不思議な話しを見ているよりも、神棚の上を見た方が、不思議な光景を見る事ができるんだが……
突っ込みを入れたいが止めておく。
……さて金神様は、どの位いうちに居座る気だろうか……。
まあどんなに長くとも、神無月の十月には、出雲に行かれるだろうが………。
久々に会った金神様に、なんとも懐かしさを覚えてちょっと嬉しい圭吾であった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
最初に書き始めてから、早いもので四年経ちました。
タラタラと拉致もない事を書いておりますが、お読みくださる方がいて本当に倖せです。
全くもって、内容もマッタリ、進みもマッタリしておりますが、気長にお付き合いくださる方々に感謝しかありません。
どうかこれからもよろしくお願い致します。