表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/299

迷い込む 彼方と此方の境目 其の七

「何やってんの」


 母親はびっくりする位い大声で、圭吾を叱責するように言った。


「何やってるって……友達と話してんじゃないか」


「友達?」


「だから友達の鈴木……」


 雅樹の方に目をやると、雅樹は居なくてそれどころか、居間に居た筈のなのに、何故だか台所のテーブルの上に座っている。


「えっ?何で?」


 圭吾が唖然としてテーブルから下りようとすると


「圭吾。そのまま勝手口から出なさい」


 母親が言った。


「えっ?」


「ほら鍵を開けて其処のドアから出てらっしゃい」


「あっああ……」


 圭吾は、今は使っていない勝手口のドアノブをみとめて頷いた。

 圭吾の家の勝手口は今は使っておらず、その前に料理を作る時や、偶に一人で食事する時に使用しているテーブルが、勝手口の前に置かれていて、いろいろな物が大雑把な母親の性格の所為で置かれている。

 そのいろいろな物を除けて、長い事握られていなかったドアノブに手を掛けて、圭吾はドアを開けて勝手口から外に出た。

 其処は通りに面した、人が一人通れる程の広さしかない圭吾の家の敷地だ。

 長い間ほったらかしにされていたから、ぼうぼうと雑草が生えていた。

 小さい時によく、友達とボールを投げ込んでは、母親に取りに行かせていたのを思い出した。


「あれ?」


 圭吾は一瞬にして、視界が明るくなるのを覚えて周りを見渡した。

 ここ暫く霞かかっていたようだったのが、からりと晴れた感じだ。

 地元のマサイ族と異名を持つ圭吾だけに、かなり遠くの家の窓の中がはっきりと見て取れた。


「やった……」


 ホクホクの体で玄関に回って中に入ろうとして

 

「………」


 玄関の鍵がかかっていて開かない。


「はあ?オカン開けてオカン」


 ガンガンとドアを叩くが開かない。

 外に出て呼び鈴を押すが誰も返事がない。


「げっ……マジかよ……」


 圭吾はスマホも財布も持たず、それどころか素足のまま出て、外に閉め出されてしまった。


「何なんだよ……」


 腹立たしいが仕方ない、濡れ縁に座り込んで母親を恨めしく思う。

 暫く経って、圭吾の部屋の窓の鍵が開いている事を思い出した。

 いえもりさまがちょろちょろ出入りできるように、圭吾が鍵をかけないようにしているのだ。

 圭吾は塀の上に飛び乗って、塀越しに自分の部屋の窓に行き、窓に手をかけると思った通り鍵が開いていた。


「俺てマジ賢いわ」


 こういう時一人で自画自賛……。ま、こんな事で褒めてくれる者などいないだろうが……。


 ……何でこんな目に……


 などと思いながら、窓から大きな身体を、部屋の中に滑り込ませた。


 やっとの思いで、ベッドに倒れこんで天井を見つめていると


「若……」


 いえもりさまが飛びつくように、圭吾にしがみついて来た。


「無事に出られたのでござりまするね……」


 ふるふると身を震わせながら、大きな瞳を潤ませている。


「ああ……オカンが……。あれ?金神様は?」


「はて?今の今まで、ご一緒にお連れくだされて、おいででござりましたのに……」


「いやいや……意味わかんねぇ……あっ!」


「あっ!」


 圭吾といえもりさまは、お互いを見合わせて立ち上がった。



 金神様は、誰も居ない神棚の上に腰を下ろして、大好きなタブレットを手にホクホクしているようだ。

 前もそうだったが、何となくわかるのだが、相変わらずはっきりとしたお姿が見えない。

 神々しすぎるのか、眩いからなのか、〝これか〟という姿がはっきりしないのだ。

 だが、ホクホクして喜んでいるのが、わかるのが不思議だ。


「母親に助け出されたようだの」


「やっぱ、母親っすかね?」


「他にないであろう?」


「そうなんすけど、なんかしっくりこないな……」


「母親が側に居なかったからか?」


「……のみならず、閉め出しくいましたから」


「はは……。それは母親が気の毒だの」


「はあ?なんで?」


「彼方と此方は地続きであるが、地続きにあらず。時を同じとするが、同じ時にあらず。此処と同じ状態とは限らぬからの……、と申してもお主しには難しいか……ははは……」


 金神様は、大好きなタブレットを片手に上機嫌だ。

 顔は解らないけど…….。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ