表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/299

迷い込む 彼方と此方の境目 其の三

 いつの間にか梅雨が終わっていた。


 ……梅雨明け……


 的な感覚がないままに、テレビで梅雨明けを報じられる。


 ……えっ?いつの間に?……


 とか思うのも、梅雨明けの恒例感覚となっている。

 考えてみれば、梅雨に入るのも気象庁が宣言するから“梅雨”になるわけで、明けるのも宣言されなければ“明ける”事にはならないのも道理か……。


 ……あれ?なんか変だぞ……


 こんな事を考える筈がない圭吾が、凄く屁理屈な事を考えて、言葉すら使った事のない“道理”で納得している。

 これは絶対緊急事態ってヤツ?

 ……と、思う事が緊急事態だ!


 そう思いながら、ちょっとフワフワした感じで家に着いた。


「お帰りなさりませ……」


 いえもりさまが丁寧にお出迎えしてくれた。

 ()()はわきまえている奴だから、最近はいえもりさまが家の何処に居ようと、圭吾以外の人間に見つからない様にしているので、気にしなくなっている。

 ……それも果たしてどうかと思うのだが……。


「ああ、ただいま……」


「若、お疲れでござりまするな」


「そうなのよ。梅雨が明けたとか言われた途端、急に暑くなったからかな?ボーとしちゃって…….。今日なんか駅の階段で河童とすれ違って挨拶された……」


「若……若……」


 ボーとしているから、いえもりさまが慌てて呼んでいるのに、気づくまでに動作が鈍い。


「えっ?」


「聞き捨てならない事を、申されておいででござりまするが……」


「へっ?」


「誰とすれ違われましてござりまするか?」


「河童……」


「か……河童さまにござりまするか?」


「かっぱ……」


「若!これは一大事にござりまする。第一に若の口から河童さまの名が出てまいる事。第二にそれを気にされぬ事。第三に私めがこうして騒いでおりまするのに、その落ち着いたご様子……一大事にござりまする!」


「へっ?なんか……最近ふわふわしてて、真昼間から色んなのに会うんだが、何故だか気にならん」


「た、例えば?」


「河童だろ?狸的な?狐的な……なんか……ぼやけてんだよね。……で、話しかけてくる……ていうか、挨拶してすれ違うんだよね。ああ……前にも見たな、真っ黒クロスケ……」


「わか!何時からにござりまする!」


「うん?何時からだろう?兎に角梅雨が明けて暑くなってから……」


「若……それはもはや、行かれておいでにござりまする」


「何処に?」


「彼方にござりまする」


「はあ?いえもりさま、俺は絶対大丈夫って言ってたよな?行ったって気づかない内に帰って来るって……」


「さようにござりまする。ゆえに若は、お気づきにならなかったのでござりまする」


「はあ?俺がこの状態を気づかなかったって?」


「さようで……」


「…………」


 圭吾は腹が立って何かを言いたいのだが、全くもって言葉がでない。


「と……とにかく一大事にござりますれば、金神様にご相談を……」


「……って、待てよいえもりさま、マジ大丈夫じゃねぇの?知らない内に出れるんじゃねぇの?」


「何時もなら……何時もならば、そうでござりまする。しかしながら……」


「はあ?しかしながら……なに?こうしてボーとしてたら出れるんじゃねぇの?」


「今日はご様子が違いまする。とにかくお待ちくだされませ」


「え〜今日は……って、昨日迄は大丈夫だったのか?」


 いや、そういえばここの所、何だか周りが薄く見える感じだった。

 本当に何かの境目が無くなったかの様に……。

 不思議とも変だとも思わなかった。

 確かに()()は、気づかないのか普通に挨拶してすれ違って行った。

 今日も駅の階段で、手摺り越しに


「おばんでやんす。暑うござんすね」


 と、河童が言った。


 ……???……


 河童なのか?確かに河童なのか?

 姿をはっきり見た訳ではないのに、だけど確かに河童だと確信した。

 だから河童だ。


「マジか?……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ