来遊 キューピッドさま 其の三
「さようにござりまする」
いえもりさまは、大真面目に大きく頷いた。
「あの、きゆーぴっとさまと甲乙付けがたい程に気まぐれな、猫にゃんさまにござりまする……。やはり、律儀な犬わんさまがご一緒なので、うたた寝や道草をそれ程にはされぬのでござりましょう……」
……そうだった。ちょっとうたた寝をしたと言って、約束をして10年待たしてへっちゃらだったり、気に入らなかったらバンバン人間を閻魔に引き渡しちゃうような、やばいやつなのだ。
待たした猫にゃん様も猫にゃん様だが、10年じっと待った犬わん様も犬わん様だ。そして、全然怒らないんだから、犬わん様の懐の深さというか、気が長いというか律儀というか……。猫にゃん様がマイペースというか、身勝手というか横柄というか……。とにかくそんな二神様だから、少しでも目的地に近ずいているのだから〝速い〟のかもしれない…….。
「あの猫にゃんさまが、漫遊をお楽しみなさらぬ訳がござりません」
「ふむふむ…….。確かに……あの猫にゃんさまだもんなぁ」
納得する自分も怖くはあるが……。
一度でも会ってしまっているから、こんな圭吾でも納得しなでいられない。
「お着きになされましたキューピッドさまは、樹海でまったりとおくつろぎの猫にゃんさまを、天空よりお気づきになられ、その神々しいお姿に惹かれて降りて行かれましてござりまする」
「……神々しい……ねぇ…….」
神々しい……というよりも、圭吾にはあの強烈キャラと、愛くるしいお姿が相反していた印象しかない。
つまり〝神々しいお姿に惹かれて……〟は、まったくといっていい程思い当たらない。
「そして直ぐにその尊いお姿から、大神様だとお解りになられましてござりまする」
「なるほどな……。猫にゃん様と犬わん様を大神と解っちゃう訳ね…….」
やっぱり引き合うものがあるのかも……。
「そこで、私めが居ります我が家をご紹介くだされました」
「我が家をご紹介?」
「さようにござりまする」
「我が家をご紹介?……???…….」
「さようにござりまする。しばらく我が家にご滞在の後、ご縁の神様の元に私めがお供してまいりまする」
「………えっ?ご縁の神様の所に行く迄、うちに居るって事か?」
「さようにござりまする」
いえもりさまは至極明るい声を発して言った。
「………何で?」
「は?」
「何で直ぐにご縁の神様の所に行かないんだよ」
「きゆーぴっとさまは、少しはやくお着きになられてしまったのでござりまする」
「はぁ?また何で?」
「何故か我が国はとても人気があるとか?」
「おっ!まあ……な」
「きゆーぴっとさまも、いろいろと勉強してまいりたいと…….」
「はいはい、観光な……観光。マジか?神様でも観光したくなる程の、何故かの人気ぶりってやつ?悪口言ってる奴らも、意外と観光しに来てんもんなぁ…….てか、だからきゆーぴっとさまも、ご縁の神様に弟子入り?って事か?う……ん。日本の神様も隅に置けない……って事か?」
「さすが若主さま!さようにござりまする。我が日の本には八百万の神様がお座しまする。我が神々さまに勝る〝もの〟などおりはいたしませぬ」
いえもりさまは〝これでもか!〟と言うような〝ドヤ顔〟を作って言った。
「はいはい、わかりました……。はぁ……マジでキューピッドがうちに?ええ?まじかよー」
「若それ程嘆かれませぬよう…….」
「嘆くだろ?どう考えたって嘆くだろ?キューピッドだぞ!キューピッド!親戚や友達じゃなくキューピッド!マジでそんな来客喜べんだろう?」
「若、一応貴賓様にござりまする」
「何が貴賓だよ!人間じゃねぇのが…….」
「神様にござりまする」
「そんな尊いお方を、何処でもてなすんだよ!」
圭吾は無神の神棚に座る、キューピッドを見つめながら呟いた。