来遊 キューピッドさま 其の二
「また、何で?」
あの愛くるしいお顔に反して、強烈過ぎる個性を思い浮かべながら、圭吾は聞いた。
「はい。我が日の本には、ご縁の神様がおいでにござりまする」
「はいはい……。何かしら有ると、いえもりさまがよくお伺いを立てに行く……」
「さようにござりまする」
「彼の国での神様が、キューピッド様にござりまする」
「まあ……そのくらい俺様でも解るから」
「さ……さようにござりまするか?若、なんとお話しのおわかりになられまする事……。私めは嬉しゅうござりまする…….」
「いやいや、何も涙ぐまんでも…….」
……ん?家守って、感極まって涙ぐむのか?……
なんて、幾度となく自問自答してきたが、いえもりさまは〝するらしい〟
だが、感極まって涙ぐんでいるものかは甚だ疑問とするところだが……。
……つーか、ここ感極まって涙ぐむところか?……
「……つぅか!ここで涙ぐむのは可笑しいから!」
いえもりさまが圭吾の知識力のレベルを、これ程低く見積もっていたとは、かなりトホホな真実だが、それに気がつかない、おめでたい性格なのが圭吾だ。
「若もご存知のごとく、愛の神様=キューピッドと思われておる事からも、昨今はキューピッド様方の進出が我が日の本でも多くなりましてござりまする」
「ふむふむ…….」
「しかしながら、太古よりご縁の神様が、先の先までを見越され、縁にあった者を縁付かせて参りました。故に大した間違いも無く縁付いておりましたが、キューピッド様が進出くだされましてからは、その気まぐれなご性分故に、結ばれては切れる事が多くなりましてござりまする」
「えっ?愛し合ってるから結ばれるんじゃねぇの?」
「愛し合う者が縁で結ばれる事もあれば、結ばれない事もござりまする。それが〝縁〟というものにござりまする。当然の事ながら、愛し合う者同士が縁を結び合えば硬く結び合え、一生幸せに添い遂げられまするが、縁のない者同士が結び合えば、いずれ解れてしまいまする」
「へぇ……そうなんだ」
「そうなんだ……にござりまする。若はしっかりとご縁の神様のお墨付きを頂いておりますれば、このままお幸せに邁進くだされませ」
「は?」
「いえいえ、私めの独り言にござりまする」
「いやいや気になるっしょ?」
「若……にやけてお聞きになりませぬよう……」
「う……」
いえもりさまが、マジでウザい程のしたり顔で言い放った。
「……そこで、キューピッド様にはご縁の神様の元で、〝ご縁〟のお勉強を頂く事と相成りまして」
「べ……勉強?」
「さようにござりまする。若のお嫌いな〝お勉強〟にござりまする」
「何もそう力を入れて言わんでも……」
「いえいえ、ここのところはしっかりともうさねばなりませぬ」
いえもりさまは大きく噛みしめるように言い放った。
「実のところ昨今の人間共の乱れようには、彼の国の神々方も、事のほか目に余るものが有るということになりまして…….」
「う……ん……。その話し自体理解不能だか、その事とキューピッドが今此処にこうしている事が、全くわからんのだが?」
「そんなこんなの理由によりまして、キューピッド様が日の本の代表である、富士のお山に到着なされましてござりまする」
「富士のお山?……って、富士山か?」
「さようで。そこでお山の裾野に広がる樹海で、まったりとおくつろぎの猫にゃんさまと、犬わんさまと遭遇なされました」
「ええ?猫にゃん様と犬わん様、富士山の樹海に居んの?」
「さようのようにござりまする」
「マジか?あれって何時だった?神様の寄り合いに出雲に行くって言って……?犬猫の歩みだったらスゲー遠くに居る感あるけど、神様の動きとしたら、超絶遅くね?」
「あの猫にゃんさまにござりまする。富士のお山までお進みだとは……私めビックリにござりまする」
「それって速いって事か?」