来遊 キューピッドさま 其の一
そろそろ暖かな日差しに、心躍る頃を迎えようとしていると、無意識に感じ始めた頃…….。
圭吾はバイトも無く、遊び好きな友からの誘いも無く、講義も早く終わってしまったにも関わらず、五月蝿い程の松田と逢うことも無く、只々想定外の早さで家に辿り着いてしまった。
まあ、そんな事なので、母親は呼び出されて行く喫茶店の仕事か、買い物にでも行っているのだろう、家の中は閑散としていて、ちょっと淋しくもある。
「いえもりさま、ただいまー」
なんか淋しいものだから、普段は言うものでも無い事を言いながら、無神の神棚のある部屋に向かう。
「ただいま……ってか、若主人様のお帰りだぞ、出迎えたらどうだ……えっ?」
グチグチと文句を言いながら部屋に入ると、圭吾は一瞬フリーズしてみせた。
「……ってか、このシチュエーション何回目だっつーの」
直ぐに立ち直りを見せて、自然と視界に入ったいえもりさまに突っ込みを入れる。
「お帰りなさりませ……」
「だから……それそれ……そのシチュエーション……」
「若、何を申されておいででござりまする?」
「もう!それそれ……」
圭吾はそう言うと、ツカツカといえもりさまの側にやって来た。
「はい、この〝もの〟は何でしょうか?」
いえもりさまの傍に腰をおろす、その〝もの〟を指差して言った。
「若……きゆーぴつと様がお見えになるのでござりまするか?」
「はい!……でこの人は……えっ?マジ?マジでキューピッド?もしやもしやと思ったが……」
「さようにござりまする。正真正銘のきゆーぴつと様にござりまする。きゆーぴつと様、我が若主人にござりまする」
何時もの事ながら、丁寧に紹介をしてくれる。
キューピッド様は、小さく頷くと圭吾を見て微笑んだ。
誰が見たってキューピッドだ。
テレビ、本、漫画に絵画……。とにかくキューピッドと圭吾が認識する〝それ〟〝その人?〟だ。
ちょっと想像していたよりも小さいが…….。
小神様が童子のようだが、それよりも小さい……といって、小人までは小さくないのだが……。
ティンカー・ベルより大きくて、小神様より小さい。
小神様が童子という〝わけ〟だが、圭吾ではサイズ的な詳細を詳しく表現できないから、ちょっとわかりずらいかもしれないが…….。
とにかく、殆どの人間が認識しているキューピッドだ。
色白で裸体で羽根が生えている。
その羽根がやはり想像していたよりも小さくて、これで飛べるのかと思う程だから発見だ。
そして笑顔がとてつもなく愛らしい。
「若……若は小神様はお見えにならないのに、きゆーぴつと様はお見えになる……。何故でござりましょう?」
「そんなの俺に解る訳ねぇじゃん」
「……で、ござりまするよね……」
確実にキューピッド様よりも小さいいえもりさまが、首を傾げる仕草はちょっと可愛くもあって、主人バカになりつつある。
「ハテ……他にも見える者と見えぬ者がござりまする……摩訶不思議にござりまする……」
「そいつは俺も気づいてた。まあ、霊は俺拒否ってるとして、小神様はお顔はわからなくても、らしき姿くらいわかってもな……」
「では、きゆーぴつと様のお顔は、おわかりにならないのでござりまするか?」
「ううん……超絶可愛い」
「それは何よりにござりまする」
「うん?何よりかどうかはわからんがな……ってか、またまた何でうちにいる訳?」
……そこ……
そこを突っ込まなくてはならないのに、最近はいろいろと麻痺し初めている自分が怖い。
「猫にゃんさまのご紹介にござりまする」
「猫にゃんさま?って、あの猫にゃん様?」
「はい、あの猫にゃんさまにござりまする」
「はあ?マジで?」
「さようにござりまする」
「マジであの猫にゃん様が?マジか……」
圭吾は、お尻フリフリ犬わん様と歩いて行かれた、お姿を思い出してため息を吐いた。
「はあ……また何で?」