交霊 新米霊能者 其の終
駅前の喫茶店のガラス越しから、賑やかな街並みを見つめながら、鈴木雅樹は肘をついて大きくため息を吐いた。
「……まったく面倒ちいたら……」
行儀が悪いが舌打ちをする。
仕方のない事だが、いろいろなものが見えるようになった。
霊や霊とも人とも区別がつかぬもの……。
人混みを眺めるのも疲れるのに、同じ数の不思議なものまで見れてしまうと、疲れは何倍にも増してしまう。
雅樹は、物分かりの良い方だ。
だから、斗司夫さんが言った事は大概理解しているから、見えたとしても驚きもしなかった。
素直に抵抗もせずに受け入れた、だがこう毎日……というか、当たり前のように頻繁に目に入ってくるなんて…….。
……どころか、近寄って来たり、話しかけられたり…….。
〝面倒〟と言って、舌打ちしたくなるのも致し方ない事だ。
「…………」
雅樹は硝子の向こうから大きく手を振る、松田を見つけて視線を逸らした。
神系(松田の言うところ)が見える松田は、霊能者となった雅樹に興味津々だ。
ことあるごとにラインを送ってきてウザい程だが、何故か憎めない懐っこさがある。
その松田が持ち前の懐っこさで、魔物と化した実篤様……賀茂に懐いているから、お力をお借りした以降も、有り難い事に実篤様と交流が叶っている。
そんな松田の後から、なんとも面倒臭げに歩いて来るのが田川だ。
雅樹から言わせれば、田川程のものを持っている者が、何故に周りのいろいろなものが見えないのか?
見えているのに気がつかないのか?
気がつかない〝フリ〟をしているのか?
急にこんな状況と化した雅樹にとって、田川はちょっと腹立たしい存在だ。
何故なら、彼はそれら全てを拒絶する事を許されているから…….。
そんな特権を与えられた不思議な存在…….。
「田川……」
雅樹は松田が、テーブルの真向かいに座るのを見届けて言った。
「は?」
呑気な表情で田川は雅樹を見た。
「お前また目が合ってたぞ」
「ええ?」
言われた当人よりも、見事なリアクションで驚いてくれるのは松田だ。
何時も事だが、その見事なリアクションに可愛さを覚える程だ。
「誰と?」
当人はこの間の抜けたリアクションだが、そこがこいつの〝凄い〟ところのような気がしてきている。
「人間……では無いもの……」
「げっ、マジか?」
この拍子抜けする受け答えも毎度の事となっている。
「田川……〝ガンつけ〟はかなりやばいぞ……」
賀茂がからかう様に割って入ってきた。
「ええ?マジか?マジ……」
「大丈夫だ。賀茂さんの存在を察して、向こうから身を引いた」
「賀茂……マジでサンキュー」
田川が本心から礼を言っているのがわかる。
天は何故、こんな小心者にこんな〝力〟を与えたのだろうか?
己にはなんの能力は無く、あったとしてもそれを拒否れる〝力〟と大物を惹きつける〝力〟
「田川さん、目がデカイっすからねー」
松田が言う。
「関係ねーだろ?」
「こんだけつぶらな瞳だと、相手も目がいくってもんすよ」
「もう下向いて歩くかなぁ……」
「はは……そんなにビビらんでも、お前に何かするのは小物しかいない」
「えっ?」
「たいていの〝もの〟は、田川の背後にいる大物の気配を察するからね」
「マジで?実篤様っすか?」
「いや、俺じゃない……」
「……?……」
「田川……お前はわからんでいい」
賀茂が慰めるように言った。
「えーそれ知りたいっすねー」
好奇心旺盛な松田が言った。
確かに雅樹も同感だ。
「はは……多くのお方とお目もじ頂いているって事……」
「あ……」
圭吾は思い当たる事がいっぱいで言葉を呑んだ。
「な、なんすか田川さん、思い当たる節があるんすねー」
「う……いえもりさまの所為であり過ぎて……」
「えーいいっすね」
能天気な松田が興奮地味に言った。
「言い訳ねーだろが……」
圭吾は真顔で松田に食って掛かる。
それを見ながら雅樹はほくそ笑んだ。
……なんでもいい……
今こうして、人に話しても解って貰えないような事を、語り合える相手がいるのだから……。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
また少しお時間を頂いて、書き進めたら……と思います。
どうかよろしくお願いします。