交霊 新米霊能者 其の四
「……という事は、どこかの親類に新たにその能力を持つ者が、誕生しているわけですよね?」
「どうかしら?そんな話は聞いてないけど……」
「なるほど……」
「えっ?」
「ああ……すみませんなんでも……。でも、斗司夫さんが亡くなってしまったら困るわけでしょ?その割には落ち着いてるな……」
「今の時代にこんな話しが本当だと思う?」
「はは……なるほど……」
「確かに斗司夫さんは常人離れしてたし、主人の事や親戚の事とか、いろいろ不思議な事を言ったり当てたりしてたけど……そりゃ、ちょっとは霊感的なものを 持っていたかもしれないけど……」
「まさか、大木と此処を守る為に能力を持った人間が生まれて来るなんて、ありえませんよねー」
「ええ……ええ……」
雅樹はおばさんと歩きながら、こんな話をしているとは思えない程に楽しそうに言った。
「だけど、じきに本当の事がわかりますよ」
「えっ?」
「あの大木と此処の自然を、守る者の大切さと必要性?」
おばさんは、雅樹を食い入るように見つめたが、その視線を受けて雅樹は本当に楽しそうに笑った。
それを見て、おばさんもつられるように笑った。
木々が繁る前方を眺めると、その先が谷のようになっているのがわかる。
雅樹はその〝先〟を横目に、おばさんが開けてくれたドアの中に視線を向けた。
「中はそのままなのよ。別れたとはいえ、奥さんと娘がいるからね……」
「娘さんがその内此処に来ると思いますよ」
「えっ?そうなの?そんな事もわかるの?」
「たったひとりの大事な娘さんですからね、こんないい所に家があるのに呼ばない訳ないでしょ?」
「へぇ……そういうものかしら?」
「そういうものです…….」
「どのくらい此処に?」
「一晩だけお邪魔しても構いませんかね?」
「一晩?」
「ええ……雨戸もこのままで……」
おばさんは、何も言わずに鍵をテーブルの上に置いて出て行った。
雨戸が締め切られている一階は、所々の隙間から陽が微かに差し込んでいる以外は暗いが、雨戸が無い台所や風呂場などから差し込む陽で、どこに何があるのかわかった。
雅樹はそのまま薄暗い居間を抜けて、二階に続く階段を上って行く。
途中にある窓から陽が差し込んで、何不自由なく二階へ上がると、予想と反して二階には雨戸がなくて明るかった。
そして、何も無い部屋が襖に仕切られるように三部屋あった。
「よく来てくれたね……」
雅樹に、この能力を与えた斗司夫が、真ん中の部屋に佇んで迎えてくれた。
「約束は守りましたよ」
「ありがとう……本当にありがとう」
「じきにお嬢さんも此処に来るでしょう」
「こんなに早くに見つけてくれるとはね……いやいや……娘の……」
「実篤様っすか?」
「ああ……噂は聞いていたが、なかなかお目にかかる事は難しい方だ。もはや、あの方程になると〝気配〟を消してしまわれるからな」
「本当に運がよかった……。それは、実篤様が言われましたが、お嬢さんの〝運〟が良いのだそうですよ」
「それでも君のお陰だ……たぶん、私だったら実篤様は聞き入れて下されなかっただろう……。本当にありがとう……」
「いえ……。〝それ〟だけの為に此処に呼んだ訳じゃないでしょ?」
「想像はついているようだね……」
「一応オタクの後継者ですからねぇ。しなくちゃいけない勤めも果たさないとね〜」
「さっきの本家の家に護り人が誕生して、此処を守る事ができるようになる迄の、ほんのちょっとの間君に此処をお願いしたいと思ってね。今迄ならそう慌てる事もなかったが、昨今の開発状況は、そうのんびりとしていられるようでもなさそうだ」
斗司夫さんは感慨深そうに言った。