交霊 新米霊能者 其の三
「あそこの畑はお宅のですか?」
「ああ……そううちのよ……」
「ご主人が?」
「お父さんは数年前に亡くなったのよ」
「だから畑の端っこにだけに野菜ができてるんだ?」
「ええ……私一人だと、そんなに作れないし……」
「今はひとり暮らしですか?……はは……そんな事、行きずりの見も知らない人間に言わない方がいいですよね……」
雅樹はそう言って、ちょっと訝り気味の初老の〝おばさん〟に言った。
「来年になったらじきに、転勤されてた息子さんが帰って来て、同居の話が出ますよ。意外とお嫁さんは良さそうな人のようだから、寂しいのもほんの少しの我慢です。長い間子供に恵まれなかったようだけど、此処に帰って来たらめでたい話しが続きます」
「あなた……何を?」
「あそこの大木は、代々大事にしてきてたんでしょう?」
「あ?ええ……あの木だけは大事にしないといけない木なんで……」
「あの木は大事にしないと、この村に災いが起こりますからね〜」
「この村って……」
「小さな〝村〟だけど、あの木に守られたいい村ですね。必ず子孫が戻って来て、あの木と周りの自然を守るようにできてる……」
「あんた一体誰?」
おばさんは眉間に皺を寄せて雅樹を直視した。
「なりたてほやほやの、新米霊能者です」
「霊能者?」
「この先にひとり居ましたよね?霊能者……」
「あんた……」
「その方の後継者です」
「は?斗司夫さんの?」
「斗司夫さんっていうんですか?あのおじさん」
「………」
「あの人の遺体はもう見つかりましたか?」
「あんた……何者なの?」
「だから、斗司夫さんの後継者です…….。本当ですよ」
雅樹は朗らかに言うと、警戒心を露わにしたおばさんをジッと見つめた。
「そうかぁ……。この道なりをずっと行った、一番奥の家……その先は木々が繁って、その先の先は谷のようになってますよね?斗司夫さんは癌で亡くなってて、早くに別れた奥さんとの間に娘さんがいます。奥さんはいい人だったけど、流石に斗司夫さんの奇行……本当は斗司夫さんじゃ無かったわけだけど、そんな現実離れした生活についていけずにこの村を出て行っちゃったんですよね……。能力の有る人間の不幸ってやつ……」
「斗司夫さんは亡くなったわ、私が見つけたのよ」
「斗司夫さんに呼ばれたわけですよね?」
「え、ええ……たぶん……」
「貴女が丁度よかったんだな……ほら、あの大木が有るから……」
雅樹はそう言うと大木を指差した。
おばさんは、雅樹を直視しながら頷いた。
「そこで、お願いがあるんですけど……おじさん……斗司夫さんの家にちょっとお邪魔したいんですが?」
「なんで私に?」
「貴女が丁度いいかな?って思って……」
おばさんは、一瞬固まったように動かずにいたが、直ぐに雅樹を再び見つめた。
「待ってなさい。どうせうちが親戚なのもわかってるんでしょ」
おばさんは、捨ぜりふを残すように言うと、急いで家の中に入って行った。
「この村自体が親戚なんですよねー?」
雅樹が大声で家の中を覗きながら声をかける。
「私の祖父さんの祖父さん辺りから、兄弟が分家して残った者が此処にいるんだけどね。血族縁者が全員此処に残るわけじゃないじゃない?嫁に行ったり、仕事で他所に行ったり死んだりね……」
そう言いながら、おばさんは鍵を手に出て来た。
「うちの一族のどこかに、何代目毎に斗司夫さんみたいなのが産まれ出て、この大木と周りの自然を守るの。今の時代自然を守り続けて行くなんて、そりゃ無理な事だもの……」
「それを守り続けてるわけですよね……」
「この大木が有る限りはね……」
おばさんは、そう言うと畑の大木へ目をやった。