授る 新米霊能者 其の七
指定されたバスに乗り、乗り換えて指定されたバス停で降りると、其処は駅ビルが有り幾つかの路線が交差している、かなり大きな駅だった。
その駅の指定された改札口出口へ向かうと
「あ!生き霊さんすよ」
視力の良い圭吾より早く、松田が生き霊さんの〝まさき〟君を見つけて指差した。
「マジか?」
生き霊まさきは、にこやかに笑って手を振っている。
「霊でも見える……ってやつじゃないよな?」
普段大して見ない夢まで見させられているものだから、疑心暗鬼気味の圭吾が言った。
「安心しろ〝霊〟でもなけりゃ〝生き霊〟でもない。生身の人間だ」
賀茂が真顔で言った。
「そりゃよかった……」
圭吾がホッとしたように言い、能天気な松田が
「まじ生き霊さんと同じっすねー」
生身のまさき君と対峙して言った。
「こっちが本家本元…….。鈴木雅樹です」
生身の雅樹は丁寧に頭を下げて挨拶をした。
「俺に夢を見せてたのは、俺を呼んでたって事?」
「まあ……。余りに持ってそうだったから、田川君が気がつかないタイプだとは読めなかった、すまん」
「今更謝られてもだが……」
「……で、田川はお役御免って事になるのか?」
「それは、あなた次第って事で……」
鈴木雅樹が賀茂に頭を垂れて言った。
「えっ?俺から賀茂に乗り換えてくれるって事?」
「実篤様がお助け下されれば……」
「その気がないと言えば?」
「最初の予定通り、田川君に手伝って貰うしかない……」
「マジか?それはマジ勘弁……賀茂頼むよ……」
圭吾がすがる様に懇願するのを見て、賀茂はにやりと笑った。
「田川にできる事なのか?」
「はは……まさか……。ただ田川君なら、あなた以上の力のあるお方を探す事は可能かと……?例えば、其処の友達は小神様を連れておいでだ。田川君が懇願すれば、友達は小神様に懇願し、家護りも懇願すれば、小神様は大神様に懇願して下さるやもしれない……それとも、田川自身が困窮すれば、家護りが後ろ盾となられる神様に懇願しに行くやもしれない……」
「……だが、お前は神にではなく、私に助けて貰いたい……」
「……やはり話しは早い。このような形で神の力をお借りすれば、天罰は必須。でもあなたなら、お願いをすれば助けて頂く事は可能かと……」
「ほう……?」
「あなたは永きに渡り、人間として生きて来られた……。神や仏よりも人間の気持ちは解って下さるかと……。僕はあそこの交差点で事故に遭い、ずっと眠っていた。それを助けてくれたのが、かなりの霊能力を持つ霊能者だった。どんなに修行をして強い能力を得た者でも、たかが人間……決められた寿命を変える事などできるはずも無い……彼は最後の力を尽くして、僕に彼の能力の一部と、そして身体の一部を与えた……」
「……だがそれはその者の力では無い……」
「この力を得て、確かにあの人の力で助かったのでは無い事は解る様になったけど、その力がなかったら、僕はこうしている事はできなかった……生き霊として、ずっと彼処の交差点に立ち尽くしてる」
「ふん。……で、その条件はなんだった?」
「彼から預かった身体の一部を、彼の娘に返す事……」
「はあ?」
「か……身体の一部……って……マジっすか?」
「あの交差点を曲がらずに行けば、僕は今でも先に在る病院の一室で眠り続けてる」
「あそこを曲がって、その者から生き延びる力として、能力と与えるべき身体の一部を授かったのか?」
「……って、折角元気に生き延びてるものを、大事な身体の一部をあげる事ないじゃないっすか?バックれちゃったらどうす?」
「契約してしまったら、そうはいかない」
賀茂は神妙な面持ちを作って松田を見た。
「そう……あそこを曲ってしまったら、もう戻れない。僕の身体には、僕には合わないものが一部として存在してる、それは早く返さないと害になる」
「マジっすか?じゃあ!早く返さないと……」
「それが契約だ……。俺は現世をずっと渡り歩く定めを……。そして、こいつは〝その一部〟を返す定めを課せられた」
「やはり実篤様だなぁ、解って下さる……」
鈴木雅樹はそう言って賀茂を見た。