授る 新米霊能者 其の五
「このままずっと歩いて行けば、先に病院がある……」
圭吾は指を指して言った。
「そしてこっちへ行けば、帰れなくなる……」
「こちらにござりまするか?」
いえもりさまは、長身の圭吾の肩の上で背伸びをして遠くを覗いた。
「カーブになっていて先が見えないっすね」
「カーブの先も、ただ道路が続いているだけだ。そして田畑に出て、その先には行けば街にでて、店や家が現れる。今バスに乗って来た所と同じだ」
「その通りです。流石実篤様ですね」
声のする方へ一同が顔をむける。
「れ……霊さんすか?」
松田がテンションを上げて、車が行き交う国道に佇む、圭吾達と同年代の青年に言った。
「いえ……ただの人間です。あっ……今は霊……と言えるかもしれませんが……」
「はあ?なんすかそれ……」
「生き霊ってやつか……」
賀茂が呟いた。すると
「生き霊っすか?」
松田のテンションが益々上がっていく。
「えー!俺生き霊さんにお会いするの初めてっす」
飛びつかんばかりに興奮している。
「飛びつかないで下さいね。車に轢かれます」
「マジっすか?」
松田は体勢を戻して言った。
「……で、なんでこいつの夢に此処が出てくるんだ?」
「目が合ったんですよ」
「は?」
「目が合ったんです」
「いやいや……合ってないから……」
圭吾は懸命に否定する。
「いえ、合ったんですよ。ただ、あなたが気づかない人だとは、思わなかったんです」
その言葉に賀茂と松田、そしていえもりさまは、思い当たる節があるような表情を浮かべて圭吾を見た。
「……気の毒だが、見当違いをしたようだな」
賀茂が圭吾に理解不能な台詞を吐いた。
「いえ……気がつかない人だったようですが、どやら見当違いな事はないようです」
「どういう意味だ?」
「僕は気づかない人だとは思わなかったんですが、〝持っている人〟だとは思ったんです。それは確かだったようだ……実篤様に小神様、家護りまで引き連れて来るとは……」
「そうすよね。田川さん自身はなーにも持ってないんすけど、凄えもん持ってんすよね。超レアカード的なもん」
「確かに……」
「ちょいちょい……俺はなーにもマジ持ってねぇの……てか、問題は其処じゃねぇだろ?なんで?俺?」
「田川……それは目が合ったからだ」
「えっ?マジそれだけ?……てか、俺合ってねぇから……」
「田川は合ってないが、こちらは合ったらしい。だからお前の夢に此処が出てくるんだ」
「えー!こっちの確認なしにか?俺覚えねぇのに?マジ勘弁だし……」
「まっ!解らずに目が合ったお前が悪い」
「マジか?マジか?それってがん付けたと、因縁付けられてるのと同等じゃねぇの?」
「理屈はそうだが……自分には無いのに、いろいろ持っているのが悪い」
「だから持ってねぇって……って、これで解ったろうから、夢見は終いになる?」
「いや……だから田川……此処で我々と会ってしまったので、もっと大変な事になった」
「は?我々?」
「我々……」
賀茂はとてもとても気の毒そうに、自分と側でチョロチョロとしている小神様、そして圭吾の肩の上にいるいえもりさまを指して言った。
「ええ?お前等連れて此処に来たのアウトだったって事?」
「アウトってゆーか、墓穴を掘った的な……?」
松田が気の毒そうに圭吾に言った。
「はあ?…墓穴….?」
「あくまでもあくまでも、俺の勘すけどね…….。夢に出るって事は、何かあるんすよ。な・に・か……。つまりそれを解決しない限り、見続けるって事じゃないかと……」
「俺や小神様を引き連れられる〝力〟があるって事だからなぁ……」
賀茂も申し訳なさそうに言った。
「はあ?賀茂……お前は大石繋がりの友達だし、小神様は松田の小神様じゃないか?俺はいえもりさまだけだぞ……」
圭吾はそう言うと、生き霊さんの方をみて
「俺はいえもりさまだけなんで」
と、きっぱり言い切った。
「いえ……持ってますよ」
「持ってねぇからさあ……」
「いえ、持ってるんです」
生き霊さんもきっぱりと圭吾に言った。




