授る 新米霊能者 其の二
「なんか最近変わった事なかったのか?」
いえもりさまが、余りにも懇願するものだから、不本意ながら圭吾が賀茂……もとい実篤様に夢の話しをすると、いえもりさまと同じ質問が返って来た。
「えーと、賀茂と松田の道祖神に参拝しただろ?あと、お稲荷様にも行っただろ?それから……」
「松田の神様はいいから……」
やはりいえもりさまと同じ反応をされる。
「う……。思い当たる事がないんだ……」
「しかし、それじゃ田川が夢を見る事はないだろう?」
「え?」
「田川って凄えもの持ってるけど、自分には〝ない〟もんな」
賀茂……実篤様は圭吾を見つめながら言った。
「何も持っていない俺が、こう頻繁に妙な夢を見る苦痛を察してくれ……」
「気の毒に思うからこそ、聞いているんだぞ……」
「解ってる。解っているんだが……」
圭吾は寝不足と疲れで、思考回路はショートぎみで、普段でもよっぽどの事で無い限り忘れ去ってしまうのに……。
それが長所というべきポジティブ思考の元となっているのに、今回においては、それが仇となって〝何時もと違った〟事が解らない。
「松田と道祖神様だろ?松田とお稲荷様だろ?……?」
「???どうした?」
「……?」
賀茂は圭吾が一点を見つめて、微動だにしない様子に何かを感じ取ったのか、松田お気に入りのバーガー屋の小さなテーブルを挟んで、身を乗り出す様に言った。
「あ……?……」
圭吾は思い出しそうで出せずに視線を動かして賀茂を見た。
「道祖神様だろ?お稲荷様……」
「だから神様は……」
「道祖神様!」
「だから田川、神様じゃ……」
「いや……バスが道祖神様の前に止まったんだ」
「は?」
「停留所とかじゃなく、渋滞でマジで道祖神様の前に止まったんだ。そんな事、あ・の松田ですら無い事らしいんだ。凄え事らしいんだ……」
「それは確かに珍しい……というより、もはや呼ばれたという事だろうな」
「そうそう。で、松田が興奮して有難がって、直ぐにブザーを押して次の停留所で降りたんだ」
「そうか……そうだろうが、神様では……」。
「その道祖神様は国道沿いに在って、ずっと先に交差点が在った」
「え?」
「其処は駅から少しバスに乗るんだが、スーパーやマンションとか店も在って、そんなに田舎って感じじゃないんだが、だんだんと田畑が広がっていって、川を越すと森や林も目につく所だった。停留所を降りて戻って道祖神様に手を合わせて、長閑な所だったので少し散策したんだが、流石に先の方に見える交差点までは行かなかったが、確かに交差点が在った」
「それって……」
「夢に見る交差点だ」
圭吾が断言した瞬間、賀茂は神妙な表情を作ったが、圭吾は今迄とはうって変わって明るい表情を作った。
性格上、賀茂の表情の変化など気にするはずもない。
「なんだ、あそこで見てたから夢に出てくる訳だ」
楽観的というのか、自分の中では悩みの解決として納得している。
「田川そう簡単な事じゃなさそうだぞ」
表情を変えずに賀茂が言う。
「え?」
「交差点に記憶があるから夢に出て来たとして、頻繁に夢に見るという解決にはなっていないだろう?まして夢なんて殆ど見ないお前が〝夢を頻繁に見る〟事が問題なんだ」
「お……まじか…….」
圭吾はドッと疲れが増したといわんばかりに、がっくり肩を落とした。
「いや……田川……とにかく〝変わった〟事が解ったんだから、そこから何かが解るやも知れん」
「そ……そうか?」
圭吾は賀茂……いやいや今や実篤様のお力を、信じたい気持ちをいっぱいにして、実篤様を仰ぎ見た。
「宜しく頼む」
殊勝に頭を下げて圭吾が言うものだから、実篤様もとい賀茂は、ちょっとはにかむように圭吾を見た。
「できるだけ力を貸すが、ちょっと厄介そうだぞ」
「えーまじかよ」
「残念ながら……」
……なんか、実篤様の言葉だと重みがある……
圭吾はとてもとても不安にかられた。
ポジティブ思考の圭吾が、不安にかられるなんて、圭吾の思考回路は完全にショートしてしまっているようだ。