授る 新米霊能者 其の一
僕はずっとこの交差点に佇んでいる。
真っ直ぐに進めば、大きな総合病院があって、僕はその病院の一室で横たわっている。
泣き叫ぶ母と茫然と見守る父が僕の為に大粒の涙を流す……。
交差点の右には広い道路が広がっていて、その先はカーブになっているから、先には何が有るのか解らない。
だけど、僕は決してそ・こ・に行ってはいけないと自分で解っている。
もしも……もしも、右に進めば決して戻って来れない事は解っている……。
だから僕はずっとこの交差点に佇んでいる。
ずっとずっと……。
最近同じ夢を見る。
交差点に佇んでいるのが、自分なのか知らない他人なのか……。
それすらも解らない……同じ夢……。
今迄夢など見た事もないのに…….。
食べる事と寝る事が唯一の楽しみとしている圭吾だ。
布団に入ってしまえば、数字を数える間もなく眠りについてしまっているから、羊さんの数など数えた事がない。
起きた時には、夢など覚えている事もない。
そんな気質の圭吾なのに…….。
見るのは何時も同じ夢で、なんと驚く事に覚えている。
夢を見るのもびっくりだが、覚えている事もびっくりだ。
だから寝起きが悪く、そしてとても疲れている。
「若。近頃何か変わられた事は、ござりませんでしたか?」
天井に張り付いて、圭吾を見下ろす形で寝ているいえもりさまも、頻繁に夢を見ているらしいと察して心配している。
何故夢を見ていると察しがつくのか?
どうやら慣れない状況なので、寝ている時に渋面を作っているらしいのだ。
……とはいっても圭吾も人間なので、今迄だって屹度夢は見ているはずだ。
ただ覚えていないだけだと思う。
……が、こう言われてしまうと、今迄経験がなかったのではないかと、自身で疑いたくなってしまう。
つまり、そんな疑いを持ってしまう程の状態なのだ。
「う〜ん……。松田に連れられて、道祖神様にお参りしただろ?松田に誘われてお稲荷様にお参りしただろ?松田に……」
「若!神様の元に行かれ過ぎにござりまする」
「いや……仕方ないじゃん。いえもりさまが居る俺様を、松田はかなり特別視していて、神様に逢わせてくれたがって面倒ちいの……」
「……とはもうせ……神様方が夢をお見せとは思えませぬし……」
「流石の俺様も、神様では無い事はわかる」
珍しく圭吾はきっぱりと言った。
「さ……さようにござりまするか?流石若主さま……」
「いやいや……どう考えたって、神様が出てくる感じじゃ無いもん……」
「……さようにござりまするか?」
余りに根拠のない〝きっぱり〟にいえもりさまが困惑を隠せないが、そんな事を気にする気質ではない。
「しかしながら、夢を見る元を探さねば、まだまだ見続ける事となりまする」
「えーまじ?こう頻繁に見てると飽きちまうぜ」
「飽きるとかの問題ではござりませぬ。何か……何か……毎日と違う事が遭ったに、相違ないのでござりまする。何卒思い出してくだされまし……」
「うーん……と、言ってもな……松田が賀茂に懐いて……」
「ええ?賀茂……とは、実篤さまでござりまするか?」
「そうそう。神系(松田が言う所)の松田は、魔物系(松田が言う所)の賀茂にご執心でさ、俺には不思議系(松田が言う所)のいえもりさまがいるから、俺と賀茂は連れ歩かれているってわけ?」
「実篤さまにござりまするか?さようにござりまする……実篤さまにお伺いいたすは賢明やもしれませぬ」
「は?何を?」
「何を?ではござりませぬ。若主さまの夢の事でござりまする」
「俺様のこの超絶面倒ちい夢の事?」
「さようで……」
「……って、なんで実篤さま……もとい賀茂?」
「長きに渡り放浪の果て、人というものについても、いろいろとご経験のはず。私めのように家及び主人及びこの一帯の事のみしか知り得ぬ、小さきものとは違い、多種多様なるケースをご体験の事でござりましょうから、ここは何卒ご相談を……」
「えー賀茂に?」
「はい実篤さまに……」
「マジで賀茂に?」
「実篤さまに……」
「えー」