土護り お宝様 其の七
「俺を気に入ってくれるは嬉しいけどな……。友ちゃんの所ならいいと思うけどな……」
しかしながら、今の馬車馬状態の父親は気の毒で仕方ないので、諦めきれずにぼやきは出てしまう。
「あそこはいずれ、ぬし様が大きく成されて、お戻りになるやもしれませぬ……」
「へっ?そうなの?」
「そうなりましたら、お宝様にとって好都合なのでござります。以前は全て地続きでござりましたが、今のご時勢アスファルトやらコンクリートやらというものが、お宝さまやミミズさまの妨げとなり、ミミズさまなど酷い目に遭うているものがいっぱいおりまする」
「確かにな……アスファルトやコンクリートの地面に、干からびてるミミズをよく見かけるな……」
「ゆえに、兄貴分さまの所にお戻りのぬし様の元に伺うにしても、実に都合がいいのでござります……」
「なるほど……」
圭吾は肩を落として納得せざるを得ない。
……こいつらの都合が良いは……どうしようもないもんな……
つまり、裏の土地がお宝様の良いようになるまでは、圭吾の父親は否応なく仕事が途絶える事なく、働かされるということだ。
……マジやばいじゃん……
圭吾は翌日友ちゃんに、お宝様といえもりさまの謀を愚痴りに行った。
流石に父親が働く分にはありがたいが、身体を壊すまでやらされ続けるのは、息子として黙ってはいられない状態だ。
ここは無理と解っていても、どうにか止めにしてほしいが、相談する相手として友ちゃんしか思い浮かばない。
「けいちゃん待ってたよ」
学校の帰りラインして予定を聞くと、今日は運良く家にいると返事をもらった。
「スンマセン……。まさかいえもりさまに、困らせられる日が来ようとは……」
顔を見るなり愚痴が口をつく。
「まあまあ……。いえもりさまにしてみれば、お家の為だから仕方ない……」
そう言いながら、懐かしくも二階の友ちゃんの部屋に案内される。
二階には部屋が四つあり、二世帯住宅だからキッチンとそんなに広くないダイニングとトイレがある。
友ちゃんちは、庭も広いし家も大きい。
「これ……」
昔から友ちゃんが好きだった、駅前のパン屋で作っているケーキをテーブルの上に置いた。
「おっ!覚えてたんだ?」
「うん……駅前のパン屋の……」
「そうそう……ここのは、あんまり甘くなくて、それでいて生クリームが美味いんだ」
「よかった!相変わらず好きだった?」
「好き好き……今でも、自分で買って来て食ってるよ。うちのばあさんも好きなんだ……」
「なんか……ばあちゃんがいると、好きなもんが似るよね」
「似る似る……」
ばあちゃん子二人は、そんな他愛もない事で盛り上がる。
それはやっぱり、幼い時を共有して育って、うちは祖母だけだったが、同じように祖父母がいる境遇で育った、似た者同士にだけ共通する〝何か〟が、あの頃の事を思い出させるからかもしれない。
「お父さん大変だな?」
「あのままじゃ、マジ過労死させられる……。まさか家護りのありがたい〝いえもりさま〟に、過労死させられる事になろうとは……」
「まさかいえもりさま〝は〟、そこまでしないだろう?」
「いや……マジやばいから……友ちゃんも気をつけないと、ここを広くしてぬし様を呼び戻す算段もあるらしいし……」
「へえ?マジか?そういう事なら、俺は頑張るよ。……って言っても、まだまだ先の話だろうけど、〝その為〟には、いろいろと思惑が入るだろうし、その期待に応えて働くよ」
「えっ?マジ?」
「マジマジ……」
「あいつ等にいいようにされるんだぜ……挙句に過労死だなんて……」
「いいようにされるわけじゃないさ。確かに〝良いように〟動く事にはなるだろうけど……その〝良いように〟は、たぶん俺やけいちゃんに〝良いように〟だよ。身を酷使して働くのも自分の為だ。ぬし様が帰って来てくれる事は、絶対この辺りの環境に〝良い事〟に決まってる。その為に身を粉にして働くのは、古今東西当たり前の事だよ。その為に身を粉にして働く人間を、死なせたりしないさ。それが特に護りならね」
「そ……そうだね……」
圭吾はいつも、友ちゃんの考えには敬服してしまう。
あいつ等を、そんな目で見れる友ちゃんは、本当に凄い……と思った。