土護り お宝様 其の六
「えっ?えっ?ちょっと待った……」
圭吾の頭の中で、くるくるといろんな事柄が交差する。
「うちの庭を広げる……って事はリアル社会では、裏の土地を〝うち〟で買うという事なんすけど……」
念を押すようにいえもりさまに、噛み砕くように言う。
「さようにござりまする」
「さようにござりまする……って言ってもね……。誰が買うんですか?」
「父君さまにござりまする」
「父さん?マジで?」
「マジで……ござりまする……」
圭吾の短いながらの経験でも、こういったいえもりさま的な〝もの達〟の言う事は、現実化さ・せ・ら・れるから、とてもとても恐い。
「うちの父さんには無理だろう?」
「……ですから只今、頑張って頂いておりまする……」
「ええ〜マジか?その為に父さんは、今馬車馬状態なのか?」
「さようにござりまする。お宝さまのたってのお願い事にござりますれば、ここは父君さまに踏ん張って頂いて……しからば、我が家は子々孫々……大安泰にござりまする」
「……そうかもしれんが……」
「裏に家が建ちました折、森林は伐採され野っ原と変わり果て、その後不本意ながらも、この一帯が開発されましても、まだぬし様やお宝様方が住めぬ状態ではござりませんでした。裏の主人達はそれはものを分かった者達ゆえ、土地を大事にしておりました……また、その隣の主人もわかる者であった為、そちらも気配りをいたしておりましたゆえ、裏の二件は成功を収めたのでござります……」
「そ……そうか……あれが、大事にするって事か……」
確かに我が家に負けず劣らず草木が生い茂り、それこそ我が家の鈴虫達を放してやりたいほどだから、土は肥えている事だろう……。
〝お宝様〟が居るには相応しく、土地もちょっと広めで、お爺さんが元気な頃は家庭菜園をしていたらしいから、〝お宝様〟の存在を知っていたのかもしれない。
「ゆえにあそこの子供達は、他に行って成功を成しておるのでござりまする」
「なるほど……じゃ、お宝様のお力で子供の誰かを戻して、大事に住まわせりゃいいんじゃね?」
「さようにも考えましたが、しかしながらあの子供等は親に似ぬ鬼子にござりまする。それこそ、お宝様のお力でその者達に任せた所で、お宝さまのお力が弱るばかりにござりまする……隣などは、主人が身罷り女主人となってからは、他で暮らす子供が薬を撒いて草を生やさぬようにいたしておりまする……なんという不届き者にござりましょう……。それに比べ我が若主さまは……私め鼻が高こうござります……」
いえもりさまはとても嬉しそうに言った。
「ゆえにずっと見ておいでであったお宝さまは、いたく若をお気に召しておいでにござりまするゆえ、ここは父君さまになんとしても踏ん張って頂く事といたしました」
「えっ?父さんが忙しいって、土地を買う為にお仕事を頂いているってわけっすか?」
「さようにござりまする。ご褒美はたんとたんと頂けまする……」
「えっ?誰から?」
「誰から?……と申されましても……」
「いやいや……会社からか、お宝様からか、ぬし様からか、土地神様からか……分からんようになってきた……」
「それは皆々様方からにござりまする……たんとたんとにござりまする……」
「マジかぁ……」
段々と、不思議もの達の事が分かってきている圭吾は、抗ってもどうにもならない事は悟ってきているので、脱力感に襲われてため息を吐いた。
「若……。もはやお悟りとは存じまするが、ぬし様なき今、お宝さまも居なくなりますれば、この辺りは近代化という名の元に、荒れ果てたものと化しまする……。生き物である人間にとって、決して良い事にはなりませぬ」
「分かってます……」
圭吾は殊勝に頷いた。
いえもりさま達、不思議もの達は脅し文句など使わない。
決して脅しで済まない事ぐらい、充分学習してきている。