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土護り お宝様 其の三

「最近父さん忙しいみたいだね……」


 久しぶりに母親と夕飯を食べながら圭吾は言った。

 久しぶり……というのも、友達と食べに行ったり、バイト先で食べたり、学校の帰りに遊んで食べてきたり……と、家で食べる事がめっきり減ってしまったからだ。

 まあ料理は、料理上手なばあちゃんに頼りきっていた母親は苦手分野だから、なんでも食うが味に煩い圭吾がいない方が、母親としてはラッキーかもしれない。

 圭吾が味に煩いのは、料理上手なばあちゃんに、離乳食から作って貰っていた為で、食が細く味音痴な父親は、身体に悪いと薄味だから、味付けを薄くしておけば、文句を言わないから、面倒くさがりな母親には丁度いい。

 しかし、料理に煩かったばあちゃんには


「作り甲斐のない人」


 だったようだ。


「圭吾はなんでも美味しそうに食べてくれるけど、お父さんは作り甲斐のない人だ」


 とよくこぼしていたのを思い出す。


「そうなのよ、最近やけに忙しいみたいで、もともと体力ないから、もうヘロヘロよ……」


 父親は以前、〝家の為〟にいえもりさまが謀をして、そのおかげ?で出世をして給料が上がったのだが、やはり世の中の仕組みとは上手くできていて、給料上がる=忙しい……となっているようだ。

 帰宅してのんびりとほとんどの時間を過ごしていた父親が、馬車馬のように働いている。

 家の修繕は必要以上に手が回り、我が家の家計もかつて無い程に潤っているらしいが、なんといっても貧乏公家の末裔で、貧乏に慣れ親しんでしまっている母親は、馬車馬のように働く父親の体力の方を心配している。


「へえー大丈夫なのかな?」


「本当、ちょっと心配……」


 そんな話をしていた日も、父親の帰りは十一時を過ぎていた。


「大丈夫かね……」


 流石に圭吾も心配になってくる。


「何事にござりまするか?」


 ついさっきまで神棚の上から母親と、ハマっているドラマを見ていたいえもりさまが、圭吾の部屋に戻ってきていて言った。


「ああ……。いえもりさまのおかげというのかどうか、とにかく父さんが出世したはいいけど、仕事が忙しくなって、あれじゃ倒れちまうんじゃないかと心配してるわけ……」


「お忙しいのは何よりにござりまする。ご褒美がたんと頂けまする……」


「まぁ、給料やボーナスはいいみたいだけど……あれじゃ身体壊しちゃうよ……」


「何をおっしゃいまするか!お父君さまが、たんとご褒美を頂くのは、我が家にとってありがき事にござりまする。今までが、余りに情けない限りだったのでござりまする」


「いや……確かにそうだが……」


「ご先代さまも、ほんに嘆かれておいでにござりました……」


「えっ?まじ?あのばあちゃんが?」


「さようにござりまする。先先代さまなど、先の戦争で失くされはいたしましたが、大きな酒屋をなされ、戦後はこのように小さいながらも、家をお建てになられました……しかるに、父君さまは家を大きくするお力もなく……いたむ家を直す事も考えぬ体たらく……それでは我が家は立ち行きませぬ!ここはガンとして踏ん張っていただかねば……」


「いや……確かにごもっともだが、人にはできる事とできない事があるからな……」


「父君さまは、できな過ぎにござりまする」


「いや……しかし……ここで倒られたら困る……」


「何をもうされまする。倒れられようが、死ぬ気で踏ん張っていただかねば……お家の為に尽くすのが、入った者の務めにござりまする」


「ええ?案外厳しい事を言うんだないえもりさま……ああ見えて、我が家の大黒柱だよ……大黒柱……」


「何をもうされまする。父君さまは、単なる若主さま迄の繋ぎにほかなりません。我が家が安泰である為にご尽力頂かねば困りまする……」


 いえもりさまは、普段になく力を入れて言った。

 しかしながら、流石にこの状況は気の毒になってしまうだろ……?

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