土護り お宝様 其の二
目を覚まして神棚を見ると、いえもりさまの姿が目に入った。
大きな身体をもたげて起き上がると、圭吾は神棚の下までのっそりとやってきて、何やら物思いの様子のいえもりさまをガン見した。
目はいいし大きめな方だ。
ジィーとガン見されていると、その気配に気づいていえもりさまがびっくりする。
……!!!……
初めてこんなにびっくりしたいえもりさまを見たので、大満足の圭吾はケラケラと笑った。
「わ……若……びっくりさせないでくだされませ」
吸盤のついた手を胸の辺りに押し当てていう様は、本当に人間のようだと感心する。
「さっき〝ミミズ〟と喋ってたべ?」
「若……見ておいででござりましたか?」
「見ておいででした……」
「お宝さまがもうしますには……」
「お宝さま?」
圭吾が合点がいかぬ様子で聞いたので、いえもりさまは
「申し訳ござりません。お宝さまとは、ミミズさまの事にござります」
と説明した。
「ミミズって、お宝様っていうのか?」
「はい……お宝さま方は、土地神様からお預かりの〝土〟を、お守りいたして汚れのないようにいたすべく、神様より使命を受けたもの達にござります」
「へぇ……」
「あのミミズがねぇ……」
と言いつつ、圭吾はミミズが苦手だ。
まあ……どちらかというと、昆虫は大体が苦手で、亡きばあちゃんには
「男の子の癖に情けない……」
と呆れられていたが……。
戦前生まれで、それこそゴキブリすら素手で捕まえられるばあちゃんにとって、ゴキブリに悲鳴をあげる〝男の子〟は、情けないにもほどがあったようだ。
「そのお宝様が何だって?」
「はい……。近年この辺りも草木が無くなり、とても住みにくくなってまいりましたようで……」
「うん……確かにな。共働きのお宅は、草むしりも面倒だからって、セメントで固めているし、高齢化に伴いお年寄りのお宅も石を敷いたり、息子や娘が除草剤を撒いたりする話しも聞くもんな……」
「さようで……」
「我が家は、ご先代さまの頃より、先先代さまからの植木を大事にしておりますれば、土地も豊かに肥えておりまするが、除草剤など害のあるものを撒いたり、石を敷き詰め過ぎますれば、土地も痩せてまいりまする。お宝さまの力では、如何様にもまいらなくなりまする」
「なるほど……。そういや、ミミズがいるだけ土地がいい……って、ばあちゃん言ってたもんな」
「はい……先代さまは、お宝さまをそれは大事になされました……。ゆえにこの辺りのお宝さま方は、徐々にこの地を離れて参るもの達が増えました……」
「えっ?また、彼方に行っちゃったりするのか?」
「流石は若主さま……。さようにござります。この辺りにはミミズさまも減ってまいりました……僕たるミミズさまが居なくなれば、お宝さまは最早おいでになれませぬ」
「えっえっ?ちょっと待った!ミミズさまとお宝さまは別もん?」
「さようにござりまする。私めと家守達との違いにござりまする」
「ほほう……。いえもりさまのように、〝家〟を守ってくれるいえもりさまと、ただの家守が存在るように、お宝さまという〝土〟を守ってくれるお宝さまと、ただのミミズが存在るわけね……。なるほど……」
圭吾は納得したが
……またまた、不思議ものか……
と、うんざり感も甚だしい。