表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/299

彼岸 知己さまのお願い事 其の二

 知己さまがメソメソ泣いている。

 以前いえもりさまが涙を流したのを見ているから、もう違和感は無いが、ずっと泣いているから圭吾も閉口する。

「どんだけ泣いたって、無理なものは無理!」

 知己さまといえもりさまが張り付いている、圭吾の部屋の天井を睨んで言った。

「そんな事を言わずに、お助けくださりませ」

 いえもりさまは、器用にも両手?前足?を合わせて見せる。

「あのものが、長き間会わなんだ私めの元に参りましたのは、余程の事にござります」

「だめ」

「私めを探すのも、今のあのものには大変な事にござります……」

「あのね……いえもりさま」

「はい……若主さま」

「知己さまが探してるという人は、たぶん柑橘類という名のグループの一人なの」

「お陰様にて、若さまが見つけてくださりました」

「いやいや。知己さまが知ってたし 」

「知っていたと申しましても、あのものがおりました所にチラシとやらがー」

 知己さまがお守りしていたおうちが無くなっても、知己さまは空き地に身を潜めて、家族達が戻って来るのを待っていた。

 知己さま達にとっては、一瞬に過ぎない月日が流れて、或る日知己さまは、主の子供が成長した姿を目にした。

 それが今や、柑橘類という名を馳せている、人気音楽グループの中の一人なのだ。

 そのグループが載っているチラシを見つけ、知己さまはどうしても会いたいという。

 芸能界など縁の無い圭吾に、どうしろというのだー、の世界だ。

「今流れてる曲が、この人達が歌っている歌ね」

「素晴らしき曲でござります。流石は我が知己の主筋にござります……」

 きも可愛い顔が、ちょっとドヤ顔になったのが笑える。

「いい!俺みたいな〝凡〟な人間は会えない人達なの」

 今度は圭吾がドヤ顔をする。

「いかようにすれば、お会いできましょうか?」

「ふっ!まあ俺が有名になれば、会えるかもね」

「では、有名におなりくださりませ」

  いえもりさまは、ムカつく程真顔で言った。

「何言っちゃってんの?なれるわけねえじゃん」

「若さま!以前も金神様にご注意されましたように、何事にもやる気を持たれないのが、若さまのお悪い所にござります」

「けっ!意味がちげーし」

  言われ無くとも解っているし、〝それが自分のモットーだ!〟的なカッコウをつけてみてはいるものの、人?から指摘されるのは腹が立つ。

「!!!若も歌を歌ってくだされば、お会いできるやも?」

 いえもりさまは、追い打ちをかけるように、無邪気な発想をして、圭吾を怒らせる。

「こーゆー人達になるには、努力とかだけじゃねえしー。確かに路上で歌ってた事もあるらしいけど、歌も上手いし、やっぱ曲と歌詞がいいわけ。つまり才能なわけよ。誰だってなれるもんじゃ無いの!」

「 それはやはり、我が主のお血筋にござります……」

 知己さまが泣くのをやめて言った。

「知己さまー。まじ悪いけど、俺にはどうにもしてやれんから。もっと都合のいい友達を探した方が早いと思うぜ。ほら、あんた達がお守りする家は栄えるってー。有名になってる人がいるっしょ?」

「ーもはや、私めには探す力が残っておりませぬ」

「若さまー。私め共も力の弱る時がござります。その隙を突かれ、不運が入り込む事があるのです」

「丁度私めの力が弱った折りに、我が主の事業が傾きましてござります。あれよあれよと言う間に、如何様にもならなくなりました。主は家を売り工場を売りー。私めの姿を見ながら、自ら命を断ちました。私めはすぐさま主に飛びつき救おうといたしましたが、力及ばず……。主の死後、ご家族が何処へ行かれたかは、力無き私めにはわかりませなんだ。只々お帰りを待つ事しかー。じきに家は私めの目の前で取り壊されー。私めは守るべき家を無くしたのでござります」

「なんとなんとー」

 いえもりさまが目を潤ませた。

「痛ましい事でござりましたな」

「不甲斐なきわが身を、呪うばかりでござりました。ですから、どうしても我が主さまにお会いしたいのでござります。私めが深き眠りにつく前に……」


 ……へっ?……


「さようにござりましたか……それは急がねば」

「さようにござります。急がねばならぬのでござります」


 …時間が無いって事?それってー?もしかしてーもしかするやつっすか?…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ