不思議噺 あやかし病院へようこそ 其の二
ソーシャルワーカーの田部さんから連絡が入った。
近くの病院には空きがないらしく、受け入れてくれそうな病院は、家からちょっと遠くなる。
受け入れてくれそうな病院二件に連絡してもらい、その内一件は見学に行かなくてはならなくなった。
向こうの都合と、こちらの都合とが合う日を決めて見学に行く。
最寄り駅から、更にバスで20分……。
バス停から国道を外れて5分程度で病院に着いた。
大きな病院で、外来の診療種類も思いの他沢山あった。
この病院のソーシャルワーカーさんに、入院についての説明を受け、病室を見学させてもらう。
思ったよりも明るい感じで好感を持ち、今後の事も宜しく言ってバス停に向かった。
直ぐに着いたはずのバス停が、行きと違ってなかなかたどり着けない。
ただ広がる田畑の道をひたすら歩いた。
バス停を見つけて走り寄ると、バス停の前にやはり大きな病院が目に入った。
……さっきの病院に再び戻って来たのか……
と思ったが、病院の雰囲気がちょっと違った。
一弥は惹かれるように病院の中に入って行った。
中は先ほどの病院と同じように、外来で人の行き来があったが、あっちの病院ほど混んではいなかった。
病院自体は最新式ではないが、さっきの病院よりも趣があって小ざっぱりと綺麗だった。
「これは川口様……」
受付の所で声をかけられて一弥は振り返った。
「あっ!狐…….」
「稲里でございます」
丁寧に頭を下げる稲里ソーシャルワーカーの、背後が気になって仕方がない一弥。
……今日は尻尾が出ていないんだ……
口に出そうだが、あえて出さないように頑張る。
「今日は?」
「近所の病院を紹介されて、見学に来たんです。ここが稲里さんの病院なんですね?」
「そうです……。紹介されたのは、あそこですか…….」
稲里は神妙な表情を作って言った。
「ついでですから、見学して行かれませんか?先ほどの病院をお考えなら、距離的にはさほど変わりませんから…….」
一弥はそう言われると、雰囲気が気に入っていたので、直ぐに快諾して病院内を案内して貰った。
病院は五階建てで、一階と二階が外来となっている。
外来診療科の数が、圧倒的に先の病院に劣るが、主要な診療科だけはあるので、病院のみならず診療科も小ざっぱりしているという事か……。
病室は四人部屋と二人部屋が殆どで、個室が少ないのが目についた。
四人部屋といっても、二人部屋が個々に続いて四人部屋を成しているので、救急病院のように一部屋をカーテンで仕切られている感じではない。
二つベッドがあって、各自はカーテンで仕切れるが、そんなにしっかりと仕切ってはいない。
もう二つベッドがある部屋とは、板で仕切られているが、看護師や介護士は無論の事、患者同士も一旦廊下に出ずとも用が済まされるように、通り抜けできるようになっていて、真ん中の仕切り部分にトイレと洗面所が設置されている。
だから四人部屋という事なのだろうが、二人部屋と大して変りはない。
そして圧感なのが、窓から広がる田畑と病院の庭園の奥の森林だ。
こんなに森林が、広がっていたのかと感嘆する程に奥まで続いている。
「此処は大神様が御座せられる唯一の場所でございます」
「大神様が御座せられる?」
「はい……あの森林奥に……」
「へぇ……行けるんですか?」
「勿論。毎朝氏子が掃除をしに参りますし、参拝もして行きます」
「へぇ……」
「宜しければ、帰りにお立ち寄りください」
「そうします……。もし此処をお願いしたい時は、田部さんに言えばいいんですか?」
「いえ……私にご連絡を……」
一弥はかなり気に入ってしまったが、どうしたものかと考えてしまう……。
……狐だもんなぁ……
内心思いながら外来診療の様子を〝ガン見〟する。
ソーシャルワーカーが狐なのだから、医者や看護師も狢や狸や諸々……。
疑ってしまうのも致し方ない……と思う。
だがしかし、患者も医師も看護師も……何変わりない〝人間〟のようだ。
もし稲里ソーシャルワーカーのように化けていたのならば、それはそれで凄い事だとも言えなくもない。
……どうしたものだろう……