幻惑 実篤様 其の終
「薫子様とは、それはそれは幾たびも濃い時を過ごしてさ……ほら、輪廻の法則で二人否応もなくくっつく定めなわけさ……」
「それに、前世の因縁で邪魔する奴らが登場すると、まじ乙女チックラブロマンスっす……」
「いや……残念ながら邪魔者なんざそう登場するもんじゃないから、直ぐくっ付いて……。初めの頃はいいけどさ……その内流石に飽きる……」
「ええ?なんて衝撃告白……」
松田は本当に衝撃を受けたように言った。
「はあ……出逢う度にまたか?そのシチュエーション的な?」
賀茂は爽やかな笑顔を見せて言った。
凄い事を言っているようにしか思えないのだが、不思議とこの男が言うと、嫌味にならないのがカッコいい。
「それで幾度めかの時に、お互いもう止めようって事にしたんだよね〜」
「えっ?」
「へっ?」
「だから……お互い出逢っても「知らないふりしようよ」的な?」
「まじっすか?妖魔になる程のお気持ちだったのに?」
松田がとても悲しげな表情を作って言った。
「そうなんだけどさ……」
松田は突っ伏す様な格好をして
「現実ってまじ辛辣っす。知らないままでいたかった……」
何故か嘆いてみせる。
「松田君って面白いね」
「え〜。輪廻の恋とか永遠の恋とか、まじロマンじゃないっすか?」
「まあ……その時の激情に関してはそういう事だろうけど、無限ループとかの次元になると思うと、まじきついぜ」
「それもそうかも……。つまり恋に生き恋に死す……的な?」
「う……ん。死なないんだけどね俺は……」
「そうか……」
「薫子様が生まれ代わって来るのを待つだけ……」
「そりゃ、きついわ」
「まあ……その事に気がついたのは、最近なんだけどさ」
「最近なんすか?」
「いやいや松田。賀茂の最近は、俺らの最近とは桁が違うと思うぞ」
「……そういうもんすか?……って、田川さんそういう事は分かってんすね」
「それこそ最近な……」
何故か不思議な縁で、妖魔の賀茂と知り合いになってしまった。
これは決して圭吾の望むところではない。
それこそ、家守りに神様に妖魔に……。関わりを持つ筈のないもの達に……。
……俺ってこの先どうなんだろう?……
圭吾に一抹の不安がよぎる。
「これで若のお悩みも解消でござりまするな……」
物思いにふけっていると、圭吾の部屋の天井に張り付いたいえもりさまが言った。
「は?何の事?」
「今までお気にやんでおられました賀茂さまの件が、一件落着ではござりませぬか」
「賀茂の件とどう関係してるって?」
「もう若ったら!賀茂さまが実篤さまならば、それはそれは大きなお力をお持ちの妖魔と化せられましてござりますれば、最も簡単に周りの者達を暗示にかけるは容易事にござりまする」
「ああ……なる程……って、賀茂に対する疑惑とか、斉藤って奴の事は?」
「若も近頃は、いろいろなお方さまにお目もじ頂いておりますれば、それでほんの少し実篤さまの綻びを見つけてしまわれたのでござりましょう」
「綻び?」
「流石のお力をお持ちのお方でも、永きに渡っておれば、綻びも出ると申すもの、そのほんの隙を若が感じ取ってしまわれたのでござりまする。たぶんその折に、同時期の斉藤さまとのご記憶が、捻じ曲がったか抜け落ちたか……」
「じゃあ大石は?大石まで記憶にないんだよ?」
「たぶん、若のお側においでで、巻き込まれたのでござりましょう」
「ええ?俺に巻き込まれちゃったのか?」
「たぶん……」
「まじっすか?」
「まじ……っす……」
いえもりさまがしたり顔で言った。
……まじでまじっすか……
圭吾は天を仰ぐ素振りを作って呟いた。
数日後圭吾達は、斉藤の現況を聞いて驚いた。
斉藤が噂通り単身海外を旅している姿が、フェイスブックに載っている事を、惑星の誰かが見つけて話題となったのだ。
「やっぱり世界を周ってんだな……」
「まじすげ〜なあいつ……」
工藤と大石は羨望の目でフェイスブックに食い入っている。
……これって、まじ斉藤か?……
圭吾が怪訝な表情で、無言の賀茂へ目を向ける。
……実篤様ならぬ賀茂の仕業か……
圭吾が向けた視線を受けて、賀茂はそれはそれは上品な笑みを浮かべた。
その姿に圭吾は、貴族の衣を纏った〝右近衛大将〟の姿を見たのだった。
最後迄お読み頂きありがとうございました。
お読み頂ける方々がいるだけで、本当に倖せです。
年をとると不思議な事や、大変な事が起こるもので、なかなかお話が更新できませんが、それでももう少し書いて行きたいと思っています。
どうかよろしくお願いいたします。