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幻惑 実篤様 其の三

「……そういやぁ、友ちゃんは元気?最近全然会わないからさ」

「もうそれはそれはお元気で……。デートにお勉強にと、多忙な毎日を過ごしでございます」

「へー、マジで木霊と付き合ってんだ?」

「さようで、木霊も近頃は主人と同じ所に通っておるとか?」

「大学?マジで?」

「はい……」

「……って、どうやって?どうやって大学に入れる訳?」

「そんな事はちょちょちょいっと……でござりまする」

 いえもりさまが、吸盤の有る指を一本立て、左右に振って言った。

「ちょちょちょいっと……って?」

「ちょちょちょいっとは、ちょちょちょいっとでござります」

「いやいや超絶興味あるわ……ちょちょちょいっとで大学に行けるなら、それいいわ……」

「若に申しましたならば、そう申されるかと……」

「うんうん。分かってんなら、もっと早く教えてくれればいいのに……」

「いやいや若主人殿。これは人間には無理かと……」

「なぜ?」

「つまり我々の発します〝気〟よりも遥かに強力な〝気〟により、自身の周りの全ての人間に暗示をかけ、共に生きる人間の如く信じ込ませねばならず、それを意ともせずに致せるは、かなりの〝力〟を持つものしか成せません」

「なるほど……」

「あの木霊さえも、やっと最近力が戻り、致せるようになったのです」

「は?周りの人間に、産まれた時から存在してたって、思い込ませるって事?そんな事できんの?」

「できるのは、強力な〝力〟を維持して使えるもののみなのです」

「へえ……強力な〝力〟を持つもののみか……」

「残念ながら、我等小さきもの達にはそこまでの力は無いのです」

「超絶級のお力をお持ちのお方達のみが、成せる技にござりまする」

「へえ……木霊ってすげぇんだ?」

「由緒正しき桜の精でございますから……」

「へえ……」

「古代より、人間と関わりを持てるものは、それは大きな力を持つ方々でござります」

「マジか?」

「例えば神々様とか木霊のごとく由緒正しき精霊だとか……」

「……強力な思いの残った霊とか……」

「霊?マジかよ。それって怪談じゃねえの?」

「怪談とかは、人間が面白恐ろしく作ったものにござりまする」

「さようで……。人間共の精気を吸い取るとか……」

「心臓を食らうとか、血を吸い尽くすとか……」

「尻子玉を食らうのもありましたな……」

「精気を吸いとって枯らしてしまうものも……」

 いえもりさまとがま殿は、腹を抱えるようにして笑った。

「みんな嘘っぱちか?」

「悪しきものならいざ知らず……。由緒正しきものが、人を食って生きるなどあり得ませぬ。そのようであれば、若は萎びて枯れ果てておりまする」

「さよう。我が主人などデートに勉強にバイトなどと……もはや床に伏しておりまする……ほほほ……」

 がま殿が大きな目を細めて笑った。その顔がちょっとグロい。

「……そうかな?最近友ちゃんを見かけてないからな……信じられんが……」

「なんと!情け無いお言葉。兄貴分さまは、それはそれは英気に満ち溢れられておいでにござりまする」

「さよう。木霊のごとく力のあるものは、愛しきものにその精気を与えるのです。それゆえに関わりを持った者は大業を果たし、歴史に多く名を残すのです」

「さようで。人間共の浅はかな怪談噺とは、真逆でござりまする。内助の功でござりまする」

「そうそう……」

 いえもりさまとがま殿は、物凄いドヤ顔をして、圭吾を見下ろした。

 その顔が滅茶苦茶グロいが愛嬌があって可愛くもある。

 最近この手のものを見慣れた圭吾の、たぶんよく目だ。

「解った解った……。大学に通ってるって事は、木霊は人間に変身してる訳?」

 圭吾は自然と幼い頃にテレビで夢中になっていた、変身もののヒーローが毎回演っていたポーズを作って聞いた。

「……?桜は絢爛豪華な花の象徴でございます故、それはそれは美しい乙女となります」

「……あの一族は、目を見張るばかりの美形揃いでござりまするからな……」

「そうそう確かに」

「……確かに」

 いえもりさまとがま殿は、互いを見合って盛り上がっている。

「へえ……精霊さんにも、美形一族ってのがあんのか?」

「まあ……我らと違い、お力の強いお方達は皆お美しく有られますが」

「そうそう……」

 心なしか二匹は無い肩を落とし、テンションも落として頷いた。

 こいつらの世界でも、やっぱり美形はもてはやされ、キモ可愛系はキモ可愛系な訳か……。


 ……なんかせつなさを感じる……。

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