幻惑 実篤様 其の一
ある日、不思議は突如として圭吾に起きた。
……あれ?あいつ何時から一緒にいるんだ?……
講義の時に急に思い浮かんだ疑問は、圭吾の中でどんどんと広がっていく……。
「賀茂?」
「うん」
「えっ?ずっと一緒じゃね?入学した時から……」
何時も学校で連んでいる仲間の一人の大石が答えた。
「えっ?一年の時はいなかっただろ?」
もう一人仲の良い工藤が言った。
この二人は、連む仲間の中でも特に親しい……というより、他のメンバーよりも一緒の時間が多い。
それは、工藤の彼女の相沢さんと、圭吾のガールフレンドの三上真鈴とが親しくなっていて、お節介な大石とその彼女の羽柴さんを含めた六人で、行動する事が増えたからだ。
これは我が家のいえもりさまの切なる思いが起こした事だが、バスケ一途……というか、異性との関わりが殆ど無かった圭吾にとって、とても良い結果になって楽しく過ごしているので、いえもりさまもまんざら厄介な事ばかりではない。
さて圭吾の疑問……とは、講義によって人数が増減する仲間内の一人の、賀茂という奴との出会いが思い浮かばない。
多い時には十人以上にもなる連む仲間だが、大体〝友達の友達は友達〟って事で、友達が増えている。
初対面から旧友の様に接してくる奴とか、そう感じさせる奴というものが存在し、そいつが銀河のごとく惑星系を増やし、大きな銀河を作り上げていく……。
まあ圭吾のグループは〝大石銀河の大石系〟というところか……。
大石は世話好きで、かなり懐こい奴だ。
入学式で声をかけられ、同じ学校だが学部が違う友達と共に、〝大石銀河〟に取り込まれ、学部が違う奴は流石に惑星とはならなかったが、大石の友人惑星には入っているし、圭吾は最早軌道惑星と化している。
そんな惑星系の奴らだが、端から大石の周を回っていた奴……その惑星の周りを回っていた奴……〝おっ!取り込まれたな〟と一目瞭然分かる奴、その周りを回っていた奴……。
あいつと連んでいるとか、あいつと高校が同じだったとか、講義が一緒で親しくなったとか、一応大まかながら記憶しているものだが、なぜだろう?急に本当に急に、圭吾は賀茂との関わりの記憶が無い事に気づいてしまった。
何故だ?
何故急に気づいて気になりだしたのだろう?
「確かに……賀茂だけはわからん……」
「大石がわからんかったら、俺らはもっとわからん……」
「……いや、俺は工藤と同じ高校だったと思っとった」
「はっ?俺とは高校は別だぜ。俺は松原と連んでる奴かと思っとった」
「いやいや、松原は無いな、性格的に……」
「おっ!沢井ちゃんは、ちょっとタイプ的に似てね?アイドル的っていうか……」
「う……ん……」
結局三人とも点でに誰かの友達と思っていて、それで今まで済んでいたわけだと思いあたった。
「……ってか、賀茂との経緯は置いといて、それでなんか問題でもあったか?」
「いや……ないんだが……」
「無いだろ?あいつアイドル的だが、気取らんし頭良いしいい奴だぜ」
「うんうん……だから気になんなかったんじゃね?」
「そうなんだが……なんか急に気になりだしたんだよね」
「何故だ?」
「何故だろう……それがまた気になるんだよね」
「はっ?田川……お前らしからん」
「えっ?」
「俺的には、お前は全く気にしないタイプだと思ってた」
大石が真顔で言った。
「そうそう……」
工藤が同調して頷く。
「そうなんだよね……俺的にも気にならんはずなんだが……何故だろう?」
「気になるのか?」
「うん、気になるんだ」
「そう言うお前初めて見るわー」
大石が感嘆すると、工藤も感嘆している様子が伺える。
圭吾はかなりの面倒くさがりだ。
それはどうやら友達間でも、暗黙の内に認知されているらしく、面倒くさがりの分細かい事を気にしない、大らかな性格として受け入れられているらしい。
これはいい事か悪い事かは別として、この圭吾の性分は仲間内では、無害な事として受け入れられている事だ。
中にはこういう所が合わない奴もいるだろうが、何せ大石銀河は大きく、更に大石の上を行く神がかりな人脈形成の持ち主の工藤が、この銀河を広げ続けている訳だから、当たらず触らずの範囲で回っている分には、お互いに問題は無い……というよりも、近ずく事が無いとなれば、当然問題は無いという事だ。