呼ばれる 小神様 其の終
暫くして……。
圭吾は、講義と講義の間が空いて暇を持て余していると、松田に声を掛けられた。
「丁度よかった。間が空いたから、どうすっか考えてたとこなんだ……」
「へー。そりゃよかったっす……ってか、たぶんこいつの仕業すけど」
「こいつ?」
圭吾が、指を指された方向である右隣を見やる。
「だってそうだろーが、おめえしかいねーし。はっ、やめろこいつ……」
松田は一人で怪しい奴になっている。
「お前やべえ奴にしか見えんぞ」
「あっ!まじっすか?まじっすよね……はは……」
松田はそう言いながら、小さく下を見てあっかんべーをしている。
……ああ、小神様か……
圭吾は納得した。
「時間持て余してんなら、あそこでバーガー食って時間潰しませんか?」
「うん、いいけど……」
「俺朝食いぱぐれて腹減って……」
「あっそう……」
学校の門を出て、通りの向こう側に有名ハンバーガー店が有って、一階で注文して二階に有る客席で食べられる仕様だ。
大学が側に有るからか、思った以上に並ぶテーブルの大半がうまっていたが、窓側の空いた席を目ざとく松田が見つけて陣取った。
「お礼を兼ねて、今度飯おごらせてください」
「いいよ。これおごって貰ったし……」
「いえ、こんなもんじゃ気が済まないっすから」
松田は殊勝に言った。
圭吾は大食いだが、最近はバスケも大してやっていないから、体を動かす事もないので、流石に高校時代よりも食えなくなってしまっている。それに今日は、一限が無かったので、朝飯も食べる時間があって、しっかり食べて来ていた。……からといって、バーガーにポテトにチキンにドリンクはしっかりと注文しているのだが……。
因みに〝腹減って……〟と言っていた松田は、バーガーが圭吾よりも一つ多い。
「田川先輩はフィッシュバーガーが好きなんすか?」
かなり大きめのハンバーガーを頬張りながら松田が聞いた。
「うん。腹減ってたらハンバーガーも食うけどね。母親が変な観念を持ってて、バーガー屋のハンバーガーはあんまり、小さい時に食わしてくれなくてさ。代わりにフィッシュバーガーだった。……だから、中高時代はハンバーガー食いまくり……」
「ああ……お母さんが関わらなくなったからっすね?」
「そうそう……そしたら、不思議なもんでさ。大学に入って金がちょっとだけ手元に有るようになったら、フィッシュバーガー食ってんの……不思議だよなぁ……」
「へえ……」
「意外といろんな意味で、親の影響力って最強だわ」
「そうっすね……それでなんすけど……」
松田は初めて会った時に、唐突に声を掛けて来た時と同様に、唐突に主題に突入した。
「やっぱオカンでした」
「お母さんだったか?」
圭吾は知っていたが、そこは上手く調子を合わせた。
人付き合いが好きな方の圭吾だから、その辺の術は抜かりなくこなせる。
「じいちゃんがヤバイ時があって、流石にその時はもう駄目かも……って覚悟したらしんすけど……まぁ、そんな時に神様は見かねてお呼び下さるんすね〜。足繁く参拝に通ったらしいんす。その内じいちゃんの容態はどんどん良くなったすからね。退院の時にお礼詣りをして済ませてもよかったんすけど、ずっと通い続けている内に、ハタと俺の受験の事をすっかり忘れてた事に気づいたらしいんす」
「なるほど……母親に有りがちだな」
圭吾は我が母親を思って呟いた。
「そうなんすよ……そしたら、じいちゃんも元気にしてくれる強力な神様だから、すっかり忘れてた罪悪感もあってか、すげーあり得ねえ願い事をしたらしいんす」
「ほうほう……」
圭吾は吹き出しそうになりながら相槌を打った。
「……オカンにしてみりゃ、じいちゃんの命と比べれば、まぁ俺の受験なんてどうって事なかったんしょうね。この際だから、高望みを通り超した願い事をしたらしいんす……それを小神様が真に受けて……」
「そりゃ気の毒だわ」
「はい……」
「じゃ、小神様は暫く居る訳ね」
「……そうなんす。暫くっていうか……なんせ、オカンが俺を一流大学一流企業に入って、すげーいい一生が遅れる様に頼んだらしくて……」
「それって無理じゃね?俺らの立ち位置って、〝凡〟の〝凡〟だぜ」
「そうっす……そうなんす。……で、俺も気の毒になってあいつと話したんす」
「ふむふむ」
流石に圭吾も興味を示して身を乗り出した。
「俺は一流は望んでない」
「うわっ!はっきりと言ったね」
「いや、どう考えたって一流はしんどいっしょ?」
「しんどいしんどい」
「……で、一流は俺にとって全然いい一生じゃ無いから、平々凡々に良い一生を送るつもりだ……と力説したっす」
「力説に深みはないな……たぶん」
「無いっすけど、それが俺一番の幸福だと思って来たっす。心情す」
「確かに……俺もそう思う」
「そうっすよねー。俺もオカンも、この大学受かっただけでも大感謝っすもん」
「まぁ、ここはそれ程評判的に下じゃ無いからな」
「そうっす……それも力説したっす。小神様のお力で、奇跡的にこの大学に入れた訳っすから、卒業も奇跡的にしないとまずいす」
「いやいや、そこは頑張らんと」
「そうっすよねー。俺頑張るから、一流じゃ無いけど、平々凡々にいい一生を送るから、守って欲しいと懇願したっす」
「なんかすげー大袈裟な物言いだが……」
「一生懸命説明したら、なんと解ってくれたっす」
「うん……松田の一生懸命さは、話を聞いている俺でも伝わるから、きっと伝わったんだなぁ」
「はい……」
ちょっと不思議にズレている松田に、圭吾は共感を持って見た。
「そうしたら、小神様も元気になってくれたっす」
「へえ、よかったね」
「よかったす」
松田はそう言うと一息吐くようにドリンクを飲んだ。
「前にも言ったすけど……」
「ん?」
「小神様って、たぶんお力はそう大きく無いんだと思うんす」
松田は顔を近づけて小声で囁いた。
「まぁ、見た目的にも……」
「シッす」
松田は口元に指を置いてシーという格好を作った。
「意外と気にしてるっす」
「へえ……」
「……で、俺的には、この位のラッキーさが丁度合う感じなんすよ」
「あー分かる。ほんのちょっとのラッキーがいいんだわ」
「そうそう……あんまりでかいと後が怖くないっすか?」
「怖い怖い。超絶でかい不幸が来そうな気がする……」
「そうなんす。……って事は、この小神様が、ずっと居て下さるとちょっとしたラッキーな事が、ちょこちょこ起こる訳っす」
「なるほど……」
「それって、俺にとっては超ラッキーってやつじゃないっすか」
「おお……なるほど」
「先輩のお陰で、小神様がずっと居て下さる事が解って、俺的には最高にラッキーす」
「……なる程……」
圭吾は松田になぜ共感を持つのか納得した。
何故なら、松田の思考は全くもって、圭吾の思考と同じだからだ。
こよなく〝平々凡〟を愛し、そしてちょっとだけ姑息……いやいや、楽な方向を望む。
もしかしたら、こんなに話しの合う奴は他にはいないかもしれない……。
そしてそういう奴には、会うべくして会う愛しき〝小さきもの達〟がいるのだ。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
お読み下さる方がいるだけで、倖せです❤️
ここの所いろいろあって、ありがたい事に神様にお呼び頂く事があり、とても有り難い体験をしました。
小神様がお出で下さればなぁ……と、願望がお噺となりました。
その時の事を追い追い、書けて行けたらいいなぁ……と思っています。
またお出で下さっていれば、それも書けたらなぁ……と思います。
本当に時間がかかりますが、宜しくお願い致します。