盆 盆の送り 其の終
お盆が済んで翌日ー。
圭吾は朝からバイトに入っていた。
バイト先は飲食店だから、盆中は暇だと思っていたが案外忙しかったらしい。
「古関が急に休むしさ」
「えっ?病気っすか?」
「いや、姉ちゃんが入院したとかーで」
「ああ。十三日花火したから吃驚した」
「そうなの?じゃ、翌日だ。十四日から昨日迄休んでたけど、今日午後から来るよ」
先輩の言っていた通り、古関は午後からやって来た。
古関は普段と変わらずで、圭吾と店の閉め迄働いて、帰りは駅迄一緒になった。
「あの日さ」
古関は神妙に小さな声で言った。
「えっ?」
「花火した日」
「ああー」
「あの日、お前ら帰って家に入って、汗かいたからシャーワー浴びようと思って風呂場に行くと、電気ついててー。姉が帰って来たと思うじゃん?だけど、暫く待っても出て来ないし、風呂場の前で聞き耳立てても、音ーしなかったんだよね。ちょっと変だと思ってーあり得ねえけど、風呂覗いて見るとさ、浴槽が真っ赤になっててー」
「へっ?」
「あいつ、彼氏とだいぶ前に別れたんだけど、どうやら一方的だったらしくて、リストカットー」
「リストカット?」
「ああー。自分で自分の手首とか切ったりする、自傷行為。俺知らなかったんだけど、何回か傷つけてるらしくて、最近やっと落ち着いてたから、親達も俺がいる事だから田舎行ったらしいんだけど、何にも言わねえでいくからー。あの時も、俺寝てると思ったみたいでさ、花火して汗かいて無かったら、俺気づかなくてマジ死んでた」
「マジかー。で、お姉さん大丈夫なの?」
「それがさ。昨日退院したんだけど、全然平気なのよ」
「えっ?」
「一年位死にたくて死にたくて仕方無かったらしいんだけど、つきものが落ちたっていうの?全然元気になっちゃってー。医者ももう大丈夫だって。何がなんだかわかんねえけど、もう吃驚よ」
「よかったじゃん」
「ああー。マジよかったよ」
古関はちょっと間を置いて黙り込んでいたが
「臨死体験って……お花畑か三途の川ってイメージだけど、姉の場合おばさんが家のポストの前に立ってたんだって」
「家のポストー?」
「そのおばさんに道を聞くんだけど、こんな天気だからおやめなさいって言われて、何故だか急に言う事をきく気になって、おばさんが指差した真っ直ぐな道の方を、ずっと歩いて帰る夢見てたらしいー」
「へえー。ちなみに、俺が駐めた車の脇の窓、あれ風呂場の?」
「ああそうだけど…。なんで?」
「ふーん……。いや、いいんだ、なんでも無い」
圭吾は古関にそう言うと、誤魔化すように話しを変えた。
次の駅で古関は下りて行き、圭吾はその先四駅を一人になって、窓から流れる夜景を眺めながら
「ふーん」
いく度となく、小さく声を出して納得した。
あの日いえもりさまに、尻尾でビシバシ攻撃されて退治された〝悪しきもの〟って、古関の姉ちゃんに付いていた魔物だったようだ。
古関の姉ちゃんが死ぬと思った魔物は、側に丁度居合わせた圭吾に付いて来て、いえもりさまに喰われてしまった。
いえもりさまに退治されていなかったら、圭吾も死にたくなっていたのだろうかー。
まあー。圭吾は天寿だけは全うできるらしいから、魔物は退治されるものだったのだろう。
古関が、お姉さんの事や、臨死体験の話しをする事すらあり得ない。
「普段言わないのにー」
母親の言葉が頭に浮かんだ。
母親も古関も、普段なら言わない事を口にした。それは
ー引かれるーと、いえもりさまが使った言葉と同じような事なのかー。
「ねえ、いえもりさま……」
「は……何用で?」
最近は、圭吾の部屋の天井に張り付いて、まったりしている事が多くなったいえもりさまは、天井からくるくると大きな目を圭吾に向けて言った。
「マジでおかん、すげ〜事にわ・か・る・んだね」
「さようで、すげ〜事におわかりになるのでござります」
「じゃーこれからも守ってね」
「ありがたきお言葉でござります」
「そっ……。マジで、よろ」
「ははー。マジでよろ仕りましてござります」
「いや、たぶんそれ違うから」
不出来な文章を、お読みいただきありがとうございました。
お目にとめて頂いただけで、幸せです。
ありがとうございました。