呼ばれる 小神様 其の七
事の起こりは、松田幸甫のお祖父さんが、急に体調を崩して入院した事から始まる。
今迄大病を患った事の無かったお祖父さんが、前触れも無く倒れてしまったので、娘の松田のお母さんは、激しく動転してしまった。
今迄とても元気だったので、当のお祖父さんを始めお祖母さんも、松田も松田のお母さんも、気づかなかったのだが、お祖父さんは年と共に少しずつ心臓が悪くなっていたのだった。
そしてその日心筋梗塞を起こして、家族を仰天させたのだ。
お母さんは年老いたお祖母さんの分も、お祖父さんの元に毎日通った。
毎日通う内に、お母さんの悲愴感が神様に察して頂いたのか、小さく目立つ所に有る訳でも無い神様の元に、呼ばれる事となった。
藁をも掴む思いのお母さんは、それからお祖父さんの所に通う傍ら、神様の元にも通うようになった。
すると、神様に気持ちが通じたのか、徐々にお祖父さんの容態は回復へと向かった。
そうなると、余計にお母さんは陶酔して詣り続けた。
親を心配するその悲愴感で呼んだ神様は、直ぐにお祖父さんが良くなる事は察せられた。
じきに回復へと向かえば、そう詣でる事も無くなるだろうとのお考えだったが、お母さんは意外と頑固で、毎日通って来たので、自然と神様も絆されるようになって行った。
お祖父さんも、もう安心という所迄回復して、退院の話しが出る頃になると、ふと松田が受験生である事を思い出した。
余りにお祖父さんが心配で、我が子の一大事の受験の事を、すっかり忘れてしまっていたのだった。
「これはとんだ事をしてしまっていた」
お母さんはそう思い、その日からお祖父さんの退院の日迄の短い間
松田が一流の大学に入って、一流の会社に就職し、とても良い一生を送れる様に
と神様にお祈りをした。
氏子でも無いお母さんの、とんでもないお願い事だから、流石の大神様も亜然とされたが、哀れに思い呼んだが、お祈り事のお祖父さんの病気は、道祖神の力も有り、大した事では無い事が分かっていたし、それでも通い詰めて来たので、ちょっと情も湧いてしまった。
それでそのお願い事の張本人を見てみる事にして、今度は松田を呼びつけた。
すると何と不思議にも、松田は大神様を見る事ができ、そして何とも良い印象を与えて来るではないか?
大神様は、たいそう松田をお気に召してしまい、一見さんなどあり得ぬ事だが、小神様を赴かせる事とされた。
……だが、どんなに大きな力をお持ちの大神様とても、絶対願い事を叶えられるとは限らない。
松田の能力に合う所……多少なりの上へは叶えられようが、こうもかけ離れた願い事を叶えられようはずも無いし、万が一叶えた所で、松田の人生に良い結果のはずも無い。
つまり、いくら大神様でも、松田を一流大学に合格させる事は、松田の能力では〝できない〟という事だ。
当たり前だが、松田自身そんな一流大学の受験など、考えるはずもなくしようはずもない。
結局一流大学にはほど遠い、圭吾と同じ大学に〝見事〟合格した。
松田は大いに喜んだ。
無論、息子の実力を知っているお母さんもホッとしている。
しかし……。
小神様は自分の力の無さに、酷く傷ついてしまわれた。
お母さんが、大神様にお願いする位だから、多少なりともできが良いと思っておられたのに、何ともとてもとてものできばえの松田だったが、小神様は小神様なりに、それはそれは頑張られた。
……頑張られたが、一流の大学など目指せるはずも無い松田だった。(なんといっても、当人にその気が無いのだ)
これでは永遠に大神様の元には戻れない。
小神様は、松田に張り付いて松田を知れば知るほど、不安で悲しくなって来てしまわれた。