呼ばれる 小神様 其の六
そんな他愛のない話を圭吾達がしている時、松田に張り付いて来ていた小神様は、隣の部屋の神様が居ない、神棚の上のいえもりさまに興味を示して側にやって来た。
「これは珍しい。家護りではないか……」
「はっ……お初にお目もじ致しまする、家護りでござりまする」
いえもりさまは、素速く神棚から滑り落ちる様に下りて、小神様の前に平伏した。
「家護りがおるとは、あの者も見掛けによらず侮れぬ奴よの」
「小神様……それはちと酷うござりまする。ああ見えまするが、我が主人は金神様のお申し子にござりまする」
「なんと?金神様の?それは珍しい……あの気難しい金神様とは……」
「さようにござりまする。お気に召さぬ事を致そうものならば、是が非でも七人殺せねば気がお済みにならぬ、あの金神様でござりまする」
「それは……」
小神様は、暫く神妙な面持ちで考え事を廻らせているようだった。
「それは、さぞやあの者の祖先は、心持ちの良い者であったのだな」
「さようにござりまする。とても信仰深く、お心の清らかなお方ゆえ、あの金神様が絆されてくだされましてござりまする」
「ふーむ……」
再び小神様は、何やらと考えこんでいる。
「……小神様」
「おっ!なんじゃ?」
小神様はハッとした様子で言った。
「何やら深くお考えがの事がお有りなご様子……」
「うっ……分かるか?そうなのじゃ、ちと考え事があるのじゃ」
「果たして、それはいかような事にござりまするか?この小さき身の私めにも、分かる事にござりましょうか?」
「分かるも分からぬも……最も簡単な事なのじゃが、我はおもんぱかるばかりよ」
「はて?小神様をこれ程までに思い量らせるとは……一大事にござりまするな」
「いや、なに……そんな一大事などではないのだ……」
心なしかシュンとされた小神様を、いえもりさまは神棚の上に促して登った。
「ほう……此処は居心地の良い神棚であるな……」
「先々代様の代には、ほれ彼方におわすお不動様のお札を祀っておりましたが、先代様の代には、祀る事をお辞めになりました」
「それはまた不届きな」
「いえいえ小神様……決して我主人達は不届き者ではござりませぬ。特に先代様は八百万の神々様には、畏敬の念をお持ちでござりましたが、近代化致し宗教と化しました神や仏は、信ずる事ができなかったのでござりまする」
「ふーむ。確かにのぉ……人間共の欲の為に神格化されしものもおるからの、よわったものよ」
「小神様をお遣わしになられまする大神様なれば、さぞかし土地の者に慕われ、尊ばれておいででござりましょう」
「うんまあ……な。有り難い事に、我ら小神を遣いに出さねばならぬ程の、永きにわたる氏子共がおる。守り人は、近隣の神々を幾つか抱えておるから無人であるが、ゆえに氏子共が掃き清めたり世話をやいてくれるから、その方が気楽であるし氏子と共におれて良いやもしれぬ」
「さようでござりまするな。直に氏子達と接せられお幸せやもしれませぬな」
「うんうん……だがのう……」
小神様は再び憂鬱な表情を作って俯いた。
「小神様……如何なされましてござりまする?私めは、このように小さきものゆえ、なんの力もござりませぬが、先ほどからのおもんぱかるお姿を拝しましては、畏れ多い事ながら、気になって致し方ござりませぬ」
「うっ……そうか?そうであろうな、そうであろうな……」
小神様はそう言うと、ふるふると体を揺らして泣き始めた。
「小神様……小神様……どうなされましてござりまする」
「うう……小さき家護りよ、このような醜態を見せてすまぬな……」
「と……とんでもござりませぬ。私めのこの小さき身が呪わしゅうござりまする。このような時に、何のお力にもなれぬ我が身が……」
「うう……すまぬな……すまぬ」
小神様は、可愛いお顔の麗しい瞳から、それはそれは尊く美しい大粒の涙を、流されながら言われた。