呼ばれる 小神様 其の五
「私めがワイドショウで見ております限り、弁護士様は守秘義務がお有りになるゆえ、他言できぬものと理解しておりました」
「あ〜なる程……。違う人には言えない訳か……」
「はい……そのように理解しておりました」
「……って事は、小神様は松田のお願い事で、松田に張り付いている訳じゃないんだ」
「いえいえ若。それは小神様にお聞きしてみなくては分かりませぬ」
「その小神様が言わねえんだもん」
「それはまた厄介な……」
「……なんだよ……」
「そうだ。いえもりさまが聞いてみてよ」
ポンと手を打って圭吾が安易に言った。
「何を申されまする。小神様は、守秘義務がお有りになると仰せなのでござりましょう?」
「いえもりさまは人じゃねぇじゃん。意外と言ってくれるかもしんないじゃん」
「若……それは屁理屈と言うものにござりまする」
「屁理屈でもなんでも、小神様が教えてくんなかったら、神様の所に言って聞くしかねぇじゃん?マジ面倒ちいよ」
「いえいえ若……。若らしからぬ事を申されまする。神様の所に参って伺うなどと……今迄の若のお言葉とも思われませぬ。お忘れ下されまし」
「……ってか、いえもりさまこそらしくないじゃん?何時もならいえもりさまの方が、首を突っ込みたがるくせに」
「わ……私めは、家の大事や若さま方の大事以外は、首など突っ込みいたしませぬ」
「はあ?よく言うよ。いえもりさまが現れてから、俺様はいろんな目に遭ってるんすけど……」
「それもこれも、母君様や若さまの御為ではござりませぬか……」
「え〜そうでしたっけ?そうでしたっけ?」
「さようにござりまする、さようにござりまする」
生真面目なのか冗談が通じないのか、一生懸命否定するいえもりさまが、面白くて可愛くてついついからかっている内に、言い合いはマジモードに入ってしまう、それが最近の圭吾といえもりさまの関係だ。
「今日はお招きありがとうございます」
古関の後輩である、松田幸甫が圭吾の家にやって来たのは、それから一週間後の事だった。
一応古関も呼んだが、生憎というか都合よくというか、古関には別の用事があって来れなかった。
まあ、こういった類の問題が有る場合は、こんな感じでトントン拍子に話が進む。話が進むと言う事は、やっている事が間違っていないと言う証となる。
つまり、松田も困っているが、小神様も困っているという事なのか……。
こういう所が解らないのが、圭吾の難だ。
さて、松田は圭吾の家の居間に有る火燵にご満悦だ。
「最近火燵ってなかなか有る家少ないっすよねー」
火燵に潜り込んで猫達を驚かしている。
「猫に火燵がまたいいなぁ」
「松田の家に火燵ねぇの?」
「俺ん所には無いっす。あっ、でも直ぐ側に在る爺ちゃん宅には有るんすよ。猫に火燵……」
「へえ?」
「前にも話したじゃないっすか?爺ちゃんと近所の道祖神に詣ってたって……」
「ああ……神様系が見える様になったやつな……」
「そうっす。俺爺ちゃん子なんすよ〜」
「そうか……」
「母親が働いてるんで、どうしても爺ちゃんと一緒に居る時間が長かったっすからね……」
「はは……それ分かるは。俺はばあちゃん……。母親はガチで働いてなかったけど、それでもパートしてたから、ばあちゃんに面倒見て貰ってたし、料理は上手かったからなぁ……。ばあちゃんの作る物は何でも美味かった」
「へえ?そうなんすか?」
「幼稚園の時、ばあちゃんのハンバーグが食いたい……って言ったらしくて、今だに根に持たれてんもんなぁ……」
「えっ?お母さんにすか?」
「そう。初めて食いたいって言ったのが、おふくろの味じゃなくて、ばあちゃんの味だったってさ」
「ははは……何かあるあるっすよね。爺ちゃんばあちゃん子の……」
「ははは……あるある……」