呼ばれる 小神様 其の四
「それは小神様にござりまする」
「こがみさま?」
「神々様方は、尊ぶ者達にお心を砕かれまする。如何なる場所であれ敬う者に慈悲のお心を下されるのでござりまする」
「ふむふむ、解る気がする」
「それは何よりにござりまする。先ず祀られておられる神様は、代々その土地の氏子達にお心を砕かれまする」
「氏子?」
「神を尊び敬う者にござりまする。しかしながら、代々永きに渡り其処の神様を尊び敬う者にしか、氏子の繁栄と護りを小神様に託されぬのでござりまする」
「こがみさま……ねぇ?」
「童を表すものもおれば、小さきものを表すものもおりまするが、神様が氏子一人一人に、身ひとつの御自ら赴く訳もまいらず、分身である小神様を赴かされるのでござりまする」
「へえ……小神様って、神様の分身なのか……」
「さようでござりまする。身は小さくとも神様は神様、お力はお有りでござりまするが、やはり〝分身〟と言う如く身を分けておいでにござりまするれば、良き事もお護りも多少なりと小さきものとなりまする」
「成る程、だから松田は、ちょっといい事が有るって感じるって訳か……」
「それで充分にござりまする。大した事が生ずれば、氏子は神様の身元に平伏して助けを求めまするゆえ……」
「な〜る程」
圭吾が納得して手を叩いた。
帰宅後部屋でお迎えのいえもりさまに、今日学食で聞いた松田の話をしたところ、こういった類の物知りないえもりさまは、圭吾に分かり易く話してくれているのだ。
「……しかしながら……」
と、いえもりさまは神妙な面持ちで首を傾げた。
「え〜またまた何か厄介な事でもあんの?」
「いえいえ、そのような事はござりませぬが……ただ……」
「ただ?」
「いえ。小神様は代々永きに渡り神様を崇め敬って参った氏子に赴くものにござりまする。しかしながら、お話を伺う限り若さまの後輩方は、それは神様の覚えめでたき御人と思われまするが、其処の氏子ではござりませぬ」
「そうそう。代々永きに渡り……の氏子とやらでは無いな。神様に呼ばれたって言ってたかんな」
「さようにござりましょう?お呼びになられたには、神様のお考えがあっての事かと……?はて?」
「〝神様に呼ばれた〟って、何か神様に考えがあって呼ばれんの?」
「そうとは限りませぬ。何時も遠目で見ておるが、ちょっと呼んでみよう……とか、ちょっと気に入ったから呼んでみよう……とか、思い悩んでおるから呼んでみよう……とか、それは神様により様々でござりまするが、一回きりの者に小神様をお遣わしになるなどと、私めは聞いた事がござりませぬ」
「成る程……確かに……松田も呼ばれる事はあったが、こんなの初めてだと言ってたわ」
「さようにござりましょう?」
「……って事は、小神様がずっと居るのは、その神様が松田を呼んだ事と関係してんのか?」
「たぶん……」
「うーん。これって面倒くさい事に関わったって奴っすか?」
「後輩方のお悩みを気に止めなさらねば、何ら面倒な事はござらぬかと……」
「……ってか、あんなに悩んでんの見たっていうのに、放っておく訳もいかんでしょうが?」
「さすれば、ちょっと面倒くさい事になりましてござりまするな」
「はあ……まじかあ〜」
「マジにござりまする」
「……ったって、神様が何故松田を呼んだかなんて、知る事できねぇじゃん?」
「ゆえに知ろうと致せば、かなり厄介な事にござりまする」
「まじかあ〜」
圭吾はベットにへたる様に横になって呟いた。
「ねぇいえもりさま……神様にも守秘義務が有るって本当?」
「何でござりまするか?それは?」
「いやナニね。小神様が神様には守秘義務が有るから、松田の願い事を言えんって言うんだと……」
「はて?」
いえもりさまは、小首を傾げて大きな目をキョロキョロさせた。それが妙に可愛くも有り、不気味でも有る。
「後輩方のお願い事ならば、何も守秘義務などとは申しますまい」
「えっ?」
「えっ?」
圭吾はいえもりさまを直視し、いえもりさまは圭吾を直視した。