呼ばれる 小神様 其の二
「俺見えるんすよ……神系……」
「神系……って……」
「だから……神様っすよ。ゴッド……シェンロン……の……」
「ああ……神様?……系って?」
「神様らしき物って意味っす」
「……神様らしき物……」
圭吾も日本語は上手とはいえないが、この松田もかなり上手いとはいえない……と、圭吾が思うのだから、会話の成り立ち方は、せいぜいいえもりさま並みだ。
はっきり言って埒が明かない。
「俺見えるだけで無く、呼ばれるんすよね……」
「呼ばれる?」
「そうっす、神系に……」
「だから、その系って……」
「ほら、よくあるじゃないっすか、街中のお稲荷さんや町中の道祖神、村道のお地蔵さんに祠とか、そんな感じのもの……」
「おお……」
圭吾は初めて見る〝呼ばれる人〟に興奮して頷いた。
「不思議とそういうのに呼ばれるんすよねー。そんでもってお姿が見えるんす……」
「マジかぁ……」
「はあ……」
「……で、神様ってどんな姿してんの?絵とか像とか……あんな感じ?」
「……そうすねぇ……大概は光輝いてて、実像は見えないっすね」
「お……何程……」
圭吾は、金神様や観音様を思い出して頷いた。
「あ?何か心当たり有るって感じじゃないすか?」
「ないない……」
「そうすか?何か田川先輩には、オーラが見えるんで、てっきりそちら方面お持ちの方かと思ったんすけど……」
「えっ?俺オーラあんの?スゲくね?見えんの……」
「いやいや先輩……」
松田は大きく項垂れて首を大きく振った。
松田幸甫は、近所に道祖神がある為、幼い頃から祖父に連れられて詣っていたのと、生まれながらの質で、神系(松田の言う所の)とは親しくなれるらしい。
物心がついた頃から、道祖神様がとても優しくて可愛がってくれたから、無垢な心の松田少年は〝神様は優しいお友達〟と思って育ってしまったのだろう。
そんな松田の能力(松田の言う所の)を感じ取った祖父は
「幸甫、神様が親しくしてくださるのは、〝幸甫だから〟なんだぞ。決してお友達に言ってはいけ無いよ」
と、言って聞かせた。
「それは、神様が幸甫だけを可愛がってくださるのだから、他のお友達を可愛がってくださるとは限らないだろう?神様は依怙贔屓はお嫌いだから、お困りになるかもしれない」
松田は、かなり純朴な性格なのだろう。いや、だから神はお姿をお見せになるのかもしれない。
祖父との約束を守って、ずっと人には言わずに成長してきたのだ……。
松田が大きく成長するにつれ、神様系達は松田をお呼びになる事もしばしば。
「大学入ってから、飛行機で参拝しに行ってますから……」
と豪語するくらいお呼び頂くし会いに行く。無論、神々しくて実際のお姿は拝見できないが、光輝くお姿を数限りなく拝見している。……しているのに……。
或る日、何時もの如く神様にお呼び頂いた。
其処は、体調を崩して入院している祖父の見舞いの帰り、車を走らせていた松田は、雑木林の奥に小さな無人の神社に呼ばれた。
何故呼ばれたと思うか?
それは、大通りを車で走り抜ければ、気づかずに通り過ぎてしまう様な場所に在る、小さな神社だったからだ。
こういう時にお導き頂くのは、呼んでくださっているからだ。
無論松田はなんの躊躇も無く、その神社に参拝し神々しく光輝く神様のお姿を拝見した。
その神々しく光輝くお姿から、かなりのお力を持つ大神様だと、長年の経験から察した。
二礼二拝した後、大神様を崇める様に深々と一礼して、石柱の鳥居を出る時に、再び深々と一礼して帰途についた。
今迄にも数々の大神様に参拝したが、感じた事の無いほどの、有り難い気持ちが込み上げて来た。
これが噂に聞く〝御力〟っていうやつかー。と思った。
大きく有名な神社は無論だが、小さく名も無く、存在すらも地元の者でしか知られない様な神社でも、〝霊験あらたか〟な大神様がおいでの神社も在る。
いや……。中途半端な神社よりも、地元の人々が愛する小さな神社の方が、大きな力を持つ大神様をお祀りしている事が多いのが不思議だ。