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呼ばれる 小神様 其の一

「田川圭吾先輩っすよね?」


「はっ?」


「田川圭吾先輩っすよね?古関先輩のご友人の……」


「古関?確かに友達だけど……?」


「ああ……良かった。たぶん間違いは無いと思いましたが、間違ったらヤベェと思ったんすよ」


「………」


「いやいや独り言っす」


 後輩らしき男はそう言いながら、圭吾のテーブルの前に座りこんだ。

 今日はたまたま、講義仲間が次々とバックれて、一人で学食での昼食となってしまった。

 圭吾の大学の学食は、テレビで話題となる美味い学食ではないので、食に関して人一倍貪欲な圭吾には、かなり悲しい学食なのだが、それでも此処のカレーライスだけは、美味いと思える。

 最近は、玉ねぎを飴色になるまで炒め、人参をジャガイモの様に大きく切って、ゴロゴロと煮込んで、聞いた事も無い香辛料で味付けをして、とろみの無いサラサラのタイプのカレーが美味いと評判だが、圭吾の家のカレーライスは、死んだばあちゃんのこだわりで、人参はいちょう切りで、玉ねぎと肉を一緒に炒め、お気に入りのカレールゥを入れて、沢山入れたじゃが芋でトロトロととろみが出るようにする。

 人参が乱切りの様にゴロゴロした物は、ばあちゃんのこだわりでは、シチューにしなくてはいけなくて、そして、カレーには茄子や南瓜や好みの野菜が入るが、シチューには必ずブロッコリーとか、さやえんどうとか、いんげんの何れか一種類が入っていなくてはいけないのだ。

 話しはちょっとそれてしまったが、つまり我が家のこだわりカレーにとても近い学食のカレーは、圭吾にとっては、他所の〝美味い〟と名打っている名店よりも、雑というか手抜きというか……。あっさりとシンプルに作られている所が口に合うのである。


「………あっ!俺、松田幸甫って言います」


「松田君?古関の後輩?」


「はい。高校の部活で一緒さして貰ってました」


「部活……って、あのよく解らん未確認なんたらかんたら……ってやつ?」


「あ……たぶん……それっす……」


 松田幸甫はてらいも無く微笑んで答えた。

 とても整った顔には似つかわしくない、濃い眉毛が印象的だ。


「田川先輩は、あれっすよね……」


「あれ……?」


「はい……あれっすよね?……見えるんすよね?」


「は?何を?」


 古関の後輩とはいえ、初対面なのに食事中に馴れ馴れしく、訳も分からない事を言う様子に、流石の圭吾も不快感を露わにして言う。


「あれっすよ……」


「いやいや……だから……」


「霊っすよ!霊……」


「はあ?」


 圭吾は大声を出して、松田が〝しいー〟という格好で、人差し指を口に当てているのを見て、慌てて声を落とした。


「だ……誰がそんな事言ったんだ?見える訳ねぇじゃん」


「またまたご謙遜」


「またまたご謙遜じゃねぇし……ってか、古関か?古関が又訳の解らん事を……?」


「はい……田川先輩は持ってるって」


「はあ?」


「いや、だから……特殊な能力を持ってるって……」


「あの野郎……」


「えっ?持って無いんすか?」


「ある訳ねぇし……」


「はあ……マジ……ガセかよ……」


「……いや、ガセって……」


「じゃ、見えるんすか?」


「見えません」


「マジか……」


 松田はもろに力を落として項垂れ、間を置いてテーブルにおでこを付けて落胆して見せた。

 その間合いの見事さに一瞬見惚れてしまったが、流石に気の毒になって


「もし、見えると言ったら?」


 と、聞いてしまった。


「本当は見えるんすか?」


「ごめん。見えないんだが……その気の落とし方、ちょっと気になって聞いてしまったが、気にしないでくれ。俺のミスだ……」

 

これはしまったと思った時には、すでに手遅れの事が多い事も、近頃の経験上承知だが、何せ学習能力が多少人様よりも劣る事も、自分で情け無くなるが解ってきている。


「俺、見えるんよ」


「えっ?霊?幽霊?」


 圭吾は慌てて身の周りを見渡した。


「いやいや、霊……じゃ無いんす」


「霊じゃない?じゃあ、何で聞いてきたんだよ」


「いや……だから何か持ってるって……古関先輩が言うもんだから、てっきりこれかと……」


 松田は両手を胸の辺りに垂らして、幽霊の格好をして言った。


「いやいや……だから見えんて……」


「そうなんすね……はあ……残念」


 松田は大きく溜息を吐いて圭吾を見た。


「俺見えるんすよ。神系が……」


「はあ?」

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